イタリアの記号論学者U・エーコが同名の著書(1962)において提示した概念。一義的に固定された意味だけでなく、演奏者や享受者を含めた解釈者によって実現される豊かな“読み”の可能性を備えた作品のこと。ただし完全に恣意的な解釈に作品が委ねられているという意味ではなく、あくまでも作者により規定された構造内で複数の読みへの可能性が開かれている、とエーコは留保を加えている。美術における開かれた作品の例として挙げられているのは「一義的方向をもつ古典的な諸形態」を否定するアンフォルメルであり、例えばJ・フォートリエのデッサンでは制限と無制限の弁証法において「記号が素材の膨張を抑制」し、J・ポロックの絵画では記号と身振りが作品固有の均衡関係に置かれている、とされている。作品読解の可能性を拡張しうるこの概念だが、作者により実現された「可能性の場」が解釈者の読みをどこまで規定しうるのかという問題に関しては、なお個々の作品に即した検討の余地があると思われる。
(飛嶋隆信)
関連URL
●U・エーコ http://www.levity.com/corduroy/eco.htm
●J・ポロック http://www.dnp.co.jp/museum/nmp/nmp_j/people/j-pollock.html
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