70年代における漫画、アニメーションやSF小説といったサブ・カルチャーの豊かな財産を継承し、80年代に自然・同時発生的に形成された文化層。暗い、人間関係が苦手など否定的なイメージが押しつけられることが多いが、90年代以降の文化批評には欠かせない軸である。政治・文化的変動期であった70年代以降、後期資本主義が完成・洗練された80年代から90年代の時代精神の一部を成すのは、オタク的感性であるといっても過言ではない。日本同様、資本主義の最終段階までに至った西欧諸国でも、類似の文化層が存在することは興味深い。オタクという枠を越えて社会現象を引き起こした、1995年のアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』は現代が抱える問題をその物語構造に含んでいた。ベンヤミンがブルジョワの傾向として論じた蒐集主義は、後期資本主義を経験して、ひとつの極としてオタク的物へのこだわりに至った。同人誌やインターネット上のホームページなど邑的メディアの形成は、消費一辺倒の大衆消費文化における創造の在り方のひとつである。アニメやゲームのキャラクターを自らの身体を使って再現しようとするコスプレと森村泰昌、森万里子、オタクのイコノロジーをより直接的に使用する村上隆など、現代美術とオタク的感性はますます接近している。それはハイ・カルチャーによるロウ・カルチャーへの目配せや接収といったものというよりは、オタク的感性の遍在性を示すものであろう。
(石田美紀)
関連URL
●『新世紀エヴァンゲリオン』 http://www.gainax.co.jp
●森村泰昌 http://www.dnp.co.jp/museum/nmp/nmp_j/people/y-morimura.html
●フォト・プレヴュー《森村泰昌[空装美術館]絵画になった私》展 http://www.dnp.co.jp/museum/nmp/nmp_j/review/0501/pre1_0501.html
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