現時点では、写真の起源はJ=L=M・ダゲールがダゲレオタイプの発明を公表した1839年であるとする見解が定説のようだが、その役割を「物質科学の成果」としか認めなかったC・ボードレールの見解に典型的なように、写真が芸術の一ジャンルへと迎え入れられるためには、F・ナダールらの肖像写真、E・J・マレーやR・マイブリッジらによる「クロマトグラフィ」の実験、19世紀末の「アート・フォトグラフィ」など、長い時間を経なければならなかった。とは言っても、その発明当初から、写真の出現が従来の遠近法的構図を大きく揺さぶり、知覚図式の修正を迫る画期的なものであったことは誰の眼にも明らかであっただろう。じつのところ、もともとは肖像や風景の記録のために用いられ、やがてその表現領域を拡大していった写真の発展史は、時期こそ異なれ、絵画のそれと大きく重なるのではないだろうか。なお、写真史の最も包括的な文献としては、N・ローゼンブラム『写真の歴史』(飯沢耕太郎監修、美術出版社、1998)が挙げられる。
(暮沢剛巳)
関連URL
●「カメラ」展(Museum
of the History of Science, Oxford) http://www.mhs.ox.ac.uk/cameras/contents.htm
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