「絵のような」、「絵の主題としてふさわしい」といった意味の言葉。語源としては、オランダ語の「絵画に値する(schilderachtig)」が最初で、ついでイタリア語の「ピットレスコ(pittoresco)」やフランス語の「ピトレスク(pittoresque)」が使われだした。英語では17世紀末に人々の口にのぼるようになる。18世紀イギリスの美学理論においては美や崇高の概念に並ぶ美的範疇とされ、不規則さ、絶え間なき変化がその特徴とされた。18世紀後半には主として風景に関する趣味の基準を表わす言葉となった。この場合、特に17世紀の風景画家、C・ロランやロイスダールらが念頭に置かれていた。イギリス人たちは、こうした絵画に見出した特徴を現実の風景にも求めるようになり、「イギリス式庭園」が誕生した。これらの風景の特徴は、不規則さ(アシンメトリー性)、過去への連想、異国的なものへの憧れである。建築におけるピクチャレスクの好例は、建築家ジョン・ナッシュのロンドン、リージェント・パークにおけるテラスハウスといった、公園と集合住宅との関係においてみられる。アシンメトリー性は20世紀の都市と造形に大きな影響を与えた。また、過去や異国への連想の原理が抽象美術の発展に果たした役割も、近年認められている。
(山口美果)
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