「公共芸術」という訳語の通りに、公園や市街地などの公共空間に恒久的に設置される芸術作品、あるいはその設置計画の総称。既存の作品がそのまま設置される場合は少なく、地方自治体等がクライアントとしてアーティストに新作の制作を委嘱する事例が多い。このような協働を「コミッション・ワーク」と呼ぶが、しかし「パブリック・アート」の範囲はそれだけにとどまらない。また、最古の洞窟壁画や宗教芸術を例に出すまでもなく、芸術の公共性についてのコンセンサスは古くからあるものだが、「パブリック・アート」という用語自体は意外と新しい。というのも、現在のこの用語は、近代以降出現した美術館という特権的な空間に対置され、“美術館ではない空間”に設置される芸術作品という意味を担うために創案されたものであるからだ。「パブリック・アート」の最大の逆説は、そもそも公的な価値を持っているはずのアートに、敢えてパブリックと被せてその公共性を二重に保証している点にあり、それはまた公共空間と私的空間の区分へと連なる問題なのだが、とりわけ公共空間の歴史が浅い日本では、この論理矛盾は何ら解消されることがないまま、各地で町おこしや景観事業としての「パブリック・アート」が展開されている。
(暮沢剛巳)
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