「デパートは[散策者の]最後の亡霊だ」とはW・ベンヤミンの言葉だが、世界でも最もこの言葉がフィットする商業施設と言えば、一時期の西武百貨店ではなかっただろうか。1970年代以降、PARCOのチェーン展開、西武美術館(後のセゾン美術館)、西武劇場、スタジオ200の開設、武満徹監修の音楽祭MUSIC
TODAYの開催など、西武百貨店が手がけた一連の文化戦略は、一私企業の事業とは思えないほど社会的な影響力を持ち、また多くの人材を輩出した。とりわけ、百貨店の販促活動とは思えないほど精力的に【現代美術】に取り組んだ西武美術館と、先端的なアングラ文化をスタイリッシュな都会的イヴェントへと変質させたスタジオ200の活動は際立っていた。アメリカの批評家・映像作家であるV・バーギンはこの点に注目、主著『In/Different
Spaces』(未邦訳、Univ of California Press, 1995)の中で、西武百貨店の一連の活動を「西武リアリズム」と名付け、この文化戦略が国際的にも特異で「日本的」であることを明らかにしたのだった。だが、92年にはスタジオ200が、99年にはセゾン美術館が閉館、西武百貨店の経営上の方針転換により「西武リアリズム」はもはや過去のものとなりつつある。
(暮沢剛巳)
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