1950年代後半から1970年代初頭にかけて、ヨーロッパ各国を舞台に社会・政治・文化・芸術の統一的実践を志向した国際的集団「シチュアショニスト・インターナショナル」(IS)の唱えた理論。イタリア、ドイツ、北欧諸国諸国にも広がったこの運動は、当然「状況」を意味するsituationを語源とするが、中心地がフランスであったことから「シチュアショニスム」とフランス語式に読まれることも多い。シチュエーショニズムは資本主義社会における大量消費を「スペクタクル」とみなして徹底的に批判する立場であり、社会の諸領域にまたがる実践を通じて、「スペクタクル」の対極にある「状況」を構築しようとする。芸術の分野に関してそれは、ル・コルビュジエ的な都市計画(ユルバニスム)に対する批判や、イタリアのコブラへの肩入れというかたちで現われた。ある意味では1980年代のポストモダニズムを先取りする立場だが、1968年の五月革命で頂点に達した、実践的な政治志向の点で決定的に異なっており、また当のシチュエーショニストたちが「イズムとしてのシチュエーショニズムは存在しない」と断言したように、理念に対応する具体性を欠いていたその運動は、1972年にISの活動停止によって終焉後、最近になって回顧されるまで久しく忘れ去られていた。なおこの運動の最もまとまった理論的成果として、運動の中心を担ったG・ドゥボールの『スペクタクルの社会』(木下誠訳、平凡社、1993)が挙げられる。
(暮沢剛巳)
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