「社会主義リアリズム」の最も人口に膾炙した定義は、旧ソ連圏における極めて政治色の強い作品群というものであろう。すなわち、社会主義を賛美するという明確な目的のために量産された、写実的な形態の作品群というものだ。概して「社会主義リアリズム」は、「ロシア・アヴァンギャルド」の実験を断ち切り、また“誰でもわかる”安直な形態の作品を量産したものとして低評価に甘んじており、確かに見るべきものは少ない。しかし、この傾向の抑圧が「ソッツ・アート」を生んだことも事実であるし、1930年代アメリカの公共事業促進局(WPA)からもわかるとおり、国家丸抱えのプロパガンダ芸術の系譜は必ずしも旧ソ連圏に限定されているわけではない。旧ソ連の崩壊後も、そうした作品は共産圏をはじめとする世界各地で多く作り続けられているが、現在ではそれらをより包括的に括る用語としては「ソーシャル・リアリズム」が用いられることが多く、「社会主義リアリズム」を誤った用語として退けている文献もある。
(暮沢剛巳)
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