「音の風景」。1960年代に、カナダの作曲家マリー・シェーファーが使いはじめた言葉で、当初、音環境全体を作品として捉えるために作られた表現であった。20世紀の芸術活動は、環境音と楽音という二項対立を解消し、あらゆる音響が音楽の対象となる可能性をもたらした。このような音楽思想状況のなかで作曲家となったシェーファーは、非楽音とされてきた環境音に注目する。日常音に対する無関心こそ、現代の騒音問題の要因であるとするシェーファーは、70年代前半に、世界サウンドスケープ・プロジェクトを組織し、風景(ランドスケープ)と音環境の関係を調査した。サウンドスケープにおいては音は「個人あるいは社会によってどのように知覚され理解されるかに強調点がおかれる」。このようなシェーファーの概念は、二つの広がりをもった方向性、すなわち現代音楽としての側面から、もう一方は環境の思想という側面から受容されている。なお、シェーファーのこの議論の詳細に関しては、主著『世界の調律』を参照のこと。
(川那聡美)
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