「タシスム」の語幹である「タッシュ」とはもともと汚れや染みを意味するフランス語だが、なるほどその代表的作家と目されるG・マチューの作品に接すると、こう形容するのが相応しく思われる。第二次大戦後いち早く勢力を拡大した「アンフォルメル」の影響力は、発祥地のフランスのみならずアメリカにまで及び、一時期J・ポロックやW・デ・クーニングも関与していた。全く絵筆を用いずに絵の具をチューブから直接キャンヴァスに塗布するマチューの技法は、ポロックの「ドリッピング」を強く意識していたものと推測され、従来のヨーロッパからアメリカへという運動の流れが、ちょうどこの時期の「抽象表現主義」を契機に逆転しつつあった歴史的経緯がここでも確かめられる。そうした事実に比例するかのように、「タシスム」の成果は「抽象表現主義」と比べるまでもなく、結局「アンフォルメル」のなかの一流派の域を出ることはなかった。
(暮沢剛巳)
関連URL
●ポロック http://www.dnp.co.jp/museum/nmp/nmp_j/people/j-pollock.html
●デ・クーニング http://www.artchive.com/artchive/D/de_kooning.html
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