本来、baroqueというポルトガル語の起源は「いびつな真珠」。その原義が徐々に17世紀に流行した華麗で装飾的な芸術様式を形容する言葉へと変質していったわけだが、20世紀末の現在、この概念はコンピュータ・テクノロジーと結びついて、モダンデザインの世界に重大なインパクトをもたらすものへと再生した。「テクノバロック」とは、そうした現状の総称と言えよう。1980年代、それまで不可能であったフラクタル幾何学の視覚化が実現された。これはもちろん、高速演算処理能力を備えたスーパーコンピュータの登場によって可能となったのだが、この視覚化は単に数学的処理の進歩ばかりか、自然界の法則・規則全体の視覚化へも道を開くものであり、従来とはまったく異なるデザイン原理を生むきっかけとなった。例えば、レーダーでは捕捉できない特質を備えた「見えない爆撃機」ステルスの、コウモリを彷彿させる奇怪なデザインはその典型例である。本来効率と合理性が極限まで追求されるはずの兵器のデザインにおいて、巨額の開発費を投じたステルスがその合理性とは対極のデザインを実現してしまったところに、コンピュータの演算処理能力が政治・経済的戦略性を凌いでしまった「テクノバロック」の核心を見ることができるだろう。
(暮沢剛巳)
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