1977年に夭逝した美術批評家・宮川淳の諸作品を編集した著作集。編集委員は、生前著者と親交のあった阿部良雄、清水徹、種村季弘、豊崎光一、中原佑介の5氏。第1巻には「鏡・空間・イマージュ」、「紙片と眼差とのあいだに」「引用の織物」などの諸著作、第2巻には処女評論である「アンフォルメル以後」をはじめとする多くの美術展評や書評、文学・言語論、第3巻には西洋美術史関連の文章が収録されている。宮川淳の著作活動はわずか10余年の短いものだったが、その間の仕事をまとめたこの著作集を通観すると、その密度の高さと同時に、ある種の二面性にも気づかされる。すなわち、M・フーコー、J・デリダ、G・ドゥルーズらの最初期の翻訳者でもあり、一般にはフランス文学・思想系の批評家という印象が強い宮川だが、美術批評家としての本領は、むしろ【抽象表現主義】をはじめとする、戦後アメリカ美術の再構成に発揮されていることだ。現在では政治性の欠如や実証性の希薄さなどの欠点も指摘されているが、宮川の鋭利な視線と透徹した文体が、当時最も良質な美術批評の言説であったことは疑いない。なお、この著作集は刊行点数が少なかったうえに長らく絶版が続き、入手不可能な読者を嘆かせていたが、99年に限定で再版された。
(暮沢剛巳)
(美術出版社、1982)
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