カナダ、トロント大学で教鞭をとっていたマーシャル・マクルーハン(1911−80)の『グーテンベルクの銀河系』(1962)と並ぶ主著。1964年に出版され、67年には最初の邦訳も出た。
彼は、キリスト教や英文学を中心とする幅広い教養を背景に、さまざまな知の領域を横断して、メディア論に新たな境地を開いた。出版当初にもかなり話題を呼んだが、近年再評価されている。その理由は、彼の示した見取り図が現在もメディアを論じる枠組みとなりえていること、現在のメディアをめぐる情勢が、彼が『グーテンベルクの銀河系』において「グローバル・ヴィレッジ(地球村)」と呼んだ情勢を想起させること、トロント大学のマクルーハン・プログラムのメディアに関する研究の継続などが挙げられよう。「メディアは人間の拡張である」と捉え、技術とは人間の感覚を外在化したものであり、また技術によって人間の感覚比率は変化を遂げるのだと考える。書き文字、活字印刷術、そして電子メディアと、新たなメディアが登場する毎に、文化は大きく変容してきた。とりわけ、近代の活字印刷術が支配的な文化と、それ以降の電子メディアが支配的な文化は、あらゆる方面から対比される。前者が視覚優勢なのに対し、後者は共感覚的である。彼によれば、前者の代表的なメディアである書物が作者の単一の視点による組織化を前提とするのに対し、後者の代表的なメディアは組織化を経ないモザイク状の産物である。それは、芸術における作り手と受け手の関係をも変えるのだ。
(三上真理子)
●M・マクルーハン『メディア論』(栗原裕+河本仲聖訳、みすず書房、1987)
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