ウィーン学派の後継的美術史家ハンス・ゼードルマイヤーによる著作(1948)の表題。副題は「時代の兆候及び象徴としての19・20世紀の造形芸術」(邦訳副題は「危機に立つ近代芸術」)。「中心を失うことは人間性を失うことである」というパスカルから採った冒頭のエピグラフの通り、構造分析の手法を用いたルドゥーの脱様式建築やロダンの台座を持たない分断された彫刻、ゴヤの無意識を追求した絵画などの考察を通じて、近代芸術が自律性・純粋性を追求して自己を解体し、人間像を著しく混乱化・デーモン化していることに「人間と神との関係が失われている」近代の時代性が表出していると主張。すなわち「中心」とは西欧文化における神であり総合的人間像(の集合としての総合芸術)を指している。
本書は刊行後ドイツ国内で広く読まれ、現代美術賛否両論を巻き起こした。ゼードルマイヤーの論考に対しては近代芸術への否定的評価や宗教的総合芸術の偏重に反論が寄せられたが、著者自身は副題の通り近代論の考察手段として芸術表現を取り上げており、その点でむしろ時代性の高度な具現化と近代芸術を評価している。
参考文献:ハンス・ゼードルマイヤー『中心の喪失──危機に立つ近代芸術(Verlust der Mitte. Die bildende Kunst
des 19. und 20. Jahrhunderts als Symptom und Symbol der Zeit)』(石川公一+阿部公正訳、美術出版社、1965)
(三本松倫代)
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