今年もまたアルル国際写真祭の季節がやってきた。いまや写真祭は世界各地で開かれるようになったが、その元祖といえば、まぎれもなくアルルだ。1970年にルシアン・クレルグら数名の写真家がこぢんまりと始めたこの写真祭は、南仏プロヴァンスを代表するこの街の魅力とも相まって、いまやひと夏に10万人もの観客を集めるほどの一大イベントと化した。街中の建物を利用した数々の展覧会や、古代劇場の野外舞台に巨大スクリーンを設置したスライドショー、シンポジウム、ワークショップなどが開かれ、さらには広場やカフェで写真家を志す若者がギャラリストやキュレーターに売り込みをかける光景があちこちで見られる。第33回目を迎える今年もまた、7月初旬のオープニングに合わせて世界中から大勢の写真家、キュレーター、ギャラリスト、写真ファンが詰めかけた。
今年の全体的な特徴を一言でいえば、例年にない規模の拡張だ。じつはこの数年来、アルル国際写真祭は予算の限界などを理由に全体の規模を縮小する傾向が続いていた。規模の縮小だけならまだよいものの、そのクオリティについても一部から疑問の声が挙がるようになり、アルル国際写真祭は観光イベントと化したとか、もはや過去の遺物だというような意見さえたびたび聞かれるようになっていた。たしかにパリ・フォト、ヒューストン、ペルピニャン、トゥールーズ、バルセロナなど、世界中でユニークな写真祭が数多く開催されるようになった今日、アルルがただその長い伝統を掲げているだけで済まされるはずもない。
今年就任した新会長のフランソワ・バレと新ディレクターのフランソワ・エベルは、アルルが陥りかけているそうした危機的状況をはっきりと認識していたとみえる。そこでまず写真祭の運営チームのほぼ全員の顔ぶれを一新した。そしてフェスティバルの期間を7月6日から14日までの9日間に拡大し(ほとんどの写真展は8月18日まで開催している)、19ヶ所で30以上の写真展、7夜のスライドショー、20種類ほどのワークショップなどを設置した。ちなみに昨年は写真展が13、スライドショーが4夜、ワークショップは5種類だったことを考えると、かなりの力の入れようであることが明らかだろう。さらに昨年中止されていたフォーロム広場での上映会やアルラタン・ホテルの中庭での作品批評も再開された。あらたに7種類のアワード(賞)を設置し、各受賞者には一万ユーロ(約120万円)の賞金が与えられることにもなった。また今年から数年間は、あくまでも今現在の多様な出来事に対してオープンであることを重視するために、写真祭全体のテーマをあえて設けない予定だという。