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今村創平 |
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必見の展覧会であることは間違いないであろう。特に東京を1000分の一のスケールで再現した巨大模型と、ヘリコプターからこちらも東京を撮ったハイビジョンの映像「東京スキャナー」は見逃せない。これらを私はオープニング時とそれからその約2週間後と繰り返し観たが、2回とも圧倒される気分を味わった。
それらの詳細を説明するまえに、まずはこの展覧会の概要を述べておこう。展覧会「世界都市、都市は空へ」は、今話題の六本木ヒルズのオープニング企画として開催されているものである。六本木ヒルズの中心とも言える超高層ビル「森タワー」の最上部に位置する「森アートセンター」を会場とし、世界の8つの大都市を巨大模型や写真等で紹介し、また東京を含む都市の状況をデータ等で分析している。これらは、ギャラリーの52階を占めているが、53階には関連企画として、「メイキング・オブ・六本木ヒルズ」と「東京」をテーマとした3つの映像フィルムが鑑賞できる。また、52階には360度の展望ロビー「東京シティビュー」があり、250mの高さから東京の町並みを見渡すことが出来る。厳密には展覧会「世界都市」は52階のギャラリーでの展示部分のみを指すが、実際にはそれに加えて、53階の展示と実際に見る東京の光景が渾然一体となって、この展覧会の印象を作り出している。
詳細にみていこう。先にも述べたように、世界の各都市、ロンドン、パリ、ベルリン、フランクフルト、シカゴ、上海、ニューヨークの模型が広いギャラリーに広々と横たわっている。訪れたことのある都市もそうでない都市も、このように上から俯瞰して見ると、いろいろと発見がある。20世紀になって、世界中の大都市はビルによって埋め尽くされどこも同じような表情になった、などということをよく聞くが実はそうではないことがよくわかる。特に、大都市の代名詞ニューヨーク、その急激な発展で何かと注目を浴びている上海、そして東京の模型が続けて展示されているが、それらは同じ1000分の1というスケールで作られているため、それぞれを比較しながら見ることができる(しかし、一見してそれらが同じ縮尺だということを信じるのはなかなか難しい)。
そして、この展覧会最大の目玉が繰り返し述べている東京の模型で、ほぼ山手線内側すべてを含むという8m×10mのサイズを持つ。そこにはすべての建物が精巧に再現され、例えば私は住んでいるマンションの自分の部屋の窓も、以前勤めていたビルの屋上の階段も確認できたといった具合である(そのように、多くの人がまずは自分の住んでいる建物を探しあっている様は、ほほえましかった)、このまさしく「無数」の建物を模型で再現したということに、驚かない人はいないであろうが、少し冷静になれば、この「無数」の建物をわれわれは実際に建ててきたことに思い至る。しかも、東京は空襲を受けているため、それらのほとんどがここ半世紀ほどに建てられたのである。このスペクタルから受ける刺激は、エンターテイメントとして我々を楽しませてくれるが、しかし一方で、何かいたたまれないものを感じる人も多いのではないか。
結論を急いでしまおう。この展覧会が政治的だというのは、何かと非難を受けやすい大規模都市開発を、積極的に肯定するために企画されているためだ。六本木ヒルズオープンにあたって、予想される反対に対して前もって予防線を張ろうという意図が明らかに見られる。だが、だからと言って主催者である森ビルに物申せば問題が解決するわけではないのが、難しいところだ。意図的だか偶然だか、東京の模型のほぼ真ん中に六本木ヒルズは位置しているが、この有数の規模を持つプロジェクトも東京全体から見ればちっぽけなものである(ましてや世界の中では)。では、この都市を作り出したのは誰なのか。
政治家や都市計画家やディベロッパーが、個々のデザインをしたのかもしれないが、この見渡す限り建物が続くという光景は、だれかがグランドデザインを描いたわけではない。なるようになってしまったのである。言い換えれば、この光景は我々の社会の産物であり、我々一人一人が加担しているとも言える。このようなことは、自分の意図とは関係なく国が戦争に参加したり、環境問題が話題になるとき感じるやるせなさと同じ構造をもつであろう。この状況に何か割り切れないものを感じる。しかしそれは自分もその一員である社会が作り出している。
21世紀、世界の都市化はますます進むという客観的事実もこの展覧会は紹介していたが、それを肯定しようとも否定しようとも、どこに住もうとも、我々はそうしたことに否応なく関わっている。そのことに改めて思い至った展覧会であった。
冒頭に触れた映像「東京スキャナー」について書くスペースがなくなってしまったが、上空から都市を広く捕らえていたかと思うと、いきなり浅草寺を歩く人の頭やグランドのサッカーボールにフォーカスするなど、先端の技術を使った押井守製作の18分の映像は斬新である。
[いまむら そうへい]
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