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アナイス・カレニン個展 Things named [things]
最終更新日:2023年05月26日
植物といかに意思疎通することができるか。
これはアナイス・カレニンが一貫して制作や研究を通して追究してきた命題である。ブラジル出身の彼女は、北部の先住民をその先祖に持ち、彼らに伝わる植物療法を幼少期から自らの手で行ってきた。その実践は、自身を取り囲む植生と対話を重ね、自らの身体を彼らのバイオシステムへと委ねることからはじまる。そしてそれは、近代以降の人間の論理による世界の認識をときほぐし、そうした論理とは別の知覚や思考へと自らを開く試みでもある。
こうした個人的な経験に加え、植物にまつわる哲学や歴史等のリサーチをもとに制作されたアナイスの作品は、彼らをとりまく種々のエージェントによるコスモロジカルな諸現象の連関[アソシエーション]の一端を可視化する。しかし、それら一つ一つを丁寧に追っていくと、ある瞬間から「全体」という言葉では語ることのできない(その使用はすでに一つのロゴスを前提としている)不可知のネットワークがその背後に繰り広げられていることに気づかされる。それにより彼女は、私たちにインストールされた「論理的(ロジカル)な」という語法がすでにして人間中心的であり、その歴史的な思考実践の脆弱性を顕にするのである。
さらに彼女の植物へ向けるまなざしは、個人的な植物との関係性を超えて、彼らとの関連創り出す文化や歴史にも向けられる。本展ではとりわけ、自身が育ったブラジルという土地における、植民による植生の人為的操作というダークヒストリーに焦点を当てる。それはポストコロニアルの問題群をエコロジーの視点から語る一つの視座の提示である。 哲学者のエマヌエーレ・コッチャは、ノンヒューマンの連関[アソシエーション]を有用性と秩序の論理に回収することを避けるため、すべての生が常に変化の途上であるとするメタモルフォーゼの考え方を提起する。アナイスはこうした植物や彼らをめぐる非論理的な連関[アソシエーション]を、不可知な神秘として作品化する。そのような彼女の実践は、エコロジーにまつわる言説が横溢するいま、私たちにどのような問いを投げかけるのだろうか。
アナイス・カレニン
アナイス・カレニンは、アーティスト、ライター、リサーチャーである。サン・パウロ大学(ブラジル)博士研究員、早稲田大学客員研究員及びティーチングアシスタント。metaPhorest(日本)のメンバー。彼女は植物と親密に関わりながら、伝統的な知識体系、神話、アニミズムを取り入れ、歴史や搾取、領土、科学について考察している。 主な展示に、恵比寿映像祭2023、ゲーテ・インスティテュート(日本)、Kunstverein Göttingen(ドイツ)、The 5th Floor (日本)、Paço Imperial(ブラジル)など。また、QOL Award PARADISE AIR(日本)、Print/CAPES Sandwich Grantに選出。雲ノ平AIR、ZAO EXPO(日本)、-m(-u-)lti us(ドイツ)等のレジデンス・プログラムに参加。オックスフォード大学、お茶の水女子大学、国連大学などで講義を行い、学術誌や書籍にテキストを寄稿している。
関連レビュー
エマヌエーレ・コッチャ『メタモルフォーゼの哲学』|星野太:artscapeレビュー(2023年01月15日号)
展覧会概要
- 会場
- The 5th Floor
(東京都台東区池之端 3-3-9 花園アレイ 5F) - 会期
- 2023年5月19日(金)〜6月11日(日)
- 入場料
- 500円
- 休館日
- 火、水曜日
- 開館時間
- 13:00〜20:00
- 問い合わせ先
- The 5th Floor
E-mail:info@the5thfloor.org - 主催
- The 5th Floor
- アーティスト
- アナイス・カレニン
- キュレーション
- 岩田智哉
- ウェブサイト
- https://the5thfloor.org