富岡八幡宮の別当寺であった慶珊寺には、中世の『大般若経』六百巻が所蔵されています。本経は主に、鎌倉時代、正中二年(1325)の奥書を持つ一群と、足利尊氏の発願により、勧進僧智感とその後継者が版行した、いわゆる智感版で構成されています。とくに、智感版『大般若経』には、版行事業のために勧縁した鎌倉府関係者の名前が多数刻まれていることから、中世後期東国の信仰、政治史に関する史料として注目されてきました。
 神奈川県立金沢文庫では、2021年から東京大学史料編纂所と共同で調査・研究を実施しており、全点の撮影、調査を通じてその全容が明らかにされつつあります。本展では、東京大学史料編纂所一般共同研究による慶珊寺蔵『大般若経』調査の成果とともに、武州富岡地域の歴史を物語る貴重な文化財をご覧頂きます。