よくも悪くもこの作家ならではのシンボリズムが全開の個展。とくに今回は、あらゆる素材で「穴」を表現した作品ばかりを集めた。しかし使われる素材によっては、その作品は簡単に凡庸な「近代彫刻」となってしまう(今回ではとくに大理石の作品と鉄の作品)。つまり、今回の作品でいえば床に穴を穿ったインスタレーションのように、やはり特殊な素材やその色彩の効果を積極的に用いることに、カプーアの持ち味があるということだ。
観客が多く、遠巻きに作品の並ぶ様子をみていると、ティツィアーノのところで急に画面の密度が上がるように感じる。ポントルモの一点にはほとんど常軌を逸しているところがある。赤いドレスにグリーンのケープを合わせた、あまりにも直截な色彩のその聖母は、まるでピッツア・マルゲリータ。
フェルメールは当然として、マネの静物画に注目。そのうちの一点、白い布がたれさがった影の部分。明るいグレーを塗りっぱなしにしたままその場所を平気で残してしまえるところに、この画家の才気が感じられはしないだろうか?それにしてもこの展示は、観客に「鑑賞」というより「勉強」を強いるものだ。そして観客もまた、嬉々としてそれを受け容れているようにみえる。