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アートピクニック ON THE WEB 2 長谷川純

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――すでにロンドンに住むようになってから何年ですか?

1989年から。12年目になります。

――海外で生活するのは日本より楽しい? 今後もロンドンを拠点にしていく予定?

海外生活はいろんな面で学ぶことがたくさんあると思います。言葉と文化が違うから。ロンドン、NYなどの都市は多国民で世界中の文化がぶつかり合っていて、統一された日本とはかけ離れています。が、そればかりが良いとは限りませんからね。楽しいこともありますが、苦労も多いです。ただ制作するには良い環境だと思っています。今のところ、ロンドンに留まっていますが、今後どうなるかはまだわかりません。あまり安定するのが好きじゃないので移動も考えられますね。

――90年代のロンドンはYBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)の存在などでかなりアクティヴだったけど。今のアートシーンはどんな感じですか?

最近「コンセプチュアル」ものから「ヴィジュアル」ものに変わりつつあります。イギリス人って、わりと飽き性ですね。いつも新しいものを探し出そうと努力します。今ビデオは停滞していて絵画と立体が多く出ています。

――ゴールドスミスに行ったことはアーティストになるきっかけになったと思いますか?

Yes.

――ゴールドスミスってどんな美大だと思う?

冷たく突き放される分、自由になる時間が多く、個人個人で学ぶものは大きいと思います。競争率は高く制作に追われる毎日でした。学校の特徴はもうご存知だと思いますが、美術の専門による区別がないこと(絵画、彫刻、ミックスメディアがひとつの学部にまとまっている)。価値ある特典だと思いますよ。

――アーティストとして生活していくのは難しいですか? どんなところが?

何にしろ生活することは大変ですよね。ただし、好きなことをやって生活が成り立つのは宝物のようにも思います。すごくラッキーです、わたし。最初、苦労をしたことは、アートは趣味ではなく、仕事として行動しなければならない、と割り切れなかったことでしょうか。それがわかるまで、時間がかかりました。

――最近のローマの個展はどんな感じだったの(出品内容/会場などの情報も)? どんな評判だったのでしょう。

出品した作品はすべて絵画です。場所はトラステヴィッレ地方にあるギャラリア・サレスというギャラリー。過去にティルマンやウィルソン姉妹、ロス・ブレックナーを出しています。約6m×10mの長方形で、明るくきれいなスペースでした。
イタリア人は意外に真面目な人々で、驚かされました。オープニングでいろんな質問攻めにあって。ロンドンじゃありえないですけど。


――純ちゃんにとって絵画って他のメディアと比べて魅力的ですか? 今後も絵画は変わっていくと思いますか? それは、どんなふうに。

私にとって絵画とは、簡単で難しいメディアです。何故簡単かと言いますと、キャンバス内のスペースには限りがあるので、そのなかで自分にとってベストなものを作ればよい。これはグラフィックデザインと似たところがありますよね。しかし、すべての絵画が良い作品とはかぎりませんから、実際、続けていくのは大変です。歴史が古いだけに勉強することも多々あります。一番の魅力はスタジオで作業中、作品とコミュニケーションができること。文字で表わすのが困難ですが、譬えると、サーフィンをやってるような気分ですかね。うまく波にのれるかどうかの違いですね。
あと、もうひとつ言えることは私の作品を「絵画」とあまり意識していないこと。絵画って100%西洋のものだと思いませんか? 私の作品はビデオや写真のアイデアを、ただ「絵」に置き換えているだけなんです。
これからの絵画に変化はありえないんじゃないでしょうか? もう、やり尽くしてしまってますから。例えば90年代以降のアートって「繰り返し」の傾向がありますよね。

――絵画不毛の時代っていうけれど真実だと思う?

それはまったく間違っていると思います。「絵」は何ごとの前提でもあるので、これが終わることはありえません。特にヨーロッパの絵画は歴史と伝統があるから。結構、保守的なんですね。ペインティングは死んでいると言われてたのは90年代初期あたりで、最近またにょきにょき出てきているから、枯れたり芽が出たりの繰り返しじゃないでしょうか。

――10月のブリティッシュ・カウンシル主催の展覧会や今後の展覧会予定について、もう少し詳しく教えてください。

ブリカン主催の展覧会は「Trailsliding」という名の巡回展で、Stephen Hepworth(Jer wood Gallery)がキュレイターをしてます。
詳しくは私も知らされていません。予定では、10月にノルウェーで開催し、ヨーロッパの西に移動する。主にイギリスの若手アーティスト10人が参加しています。参加者はPeter Davies, David Thorpe, DJ Shimpson, Simon Periton, Gary Web, Graham Little など。あくまでも“予定
ですので、変更の可能性もあります。ロンドンでの個展は勝手に私が予定しているもので、実現するかどうかはわかりません。数年来発表していないので、行ないたいですが、するとしたら、小さい個展になると思います。延び延びになっている日本の個展も早く実現したいです。

――日本での発表はこれからが本格的だと思うけど。
日本の観客のみなさんにメッセージを。


長い目で見守って下さい。日本だけでなく、いろんな場所で発表できるようがんばります。



title: 'Social Club'
year: 2001
size: 74×96 inch
medium: household paint on canvas

   

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