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公立美術館における教育活動の記録 ..

連載「美術館教育1969−1994」概要(11)

美術館教育研究会
年表「オリエンテーリング」


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趣 旨


 当研究会は、CD-ROM「美術館教育1969−1994:日本の公立美術館における教育活動18館の記録」を1998年に発行しました。その内容は、各館の年報や印刷物等から教育活動のデータを収集・整理して年表化したもので、館名、カテゴリー、キーワード、年代などによる検索も可能です。
 当アートスケープではこのCD-ROMのデータ概要をカテゴリー別に順次発表しています。主として26年間にわたる教育活動の動向がわかるようにまとめとめたものです。また、動向がより明瞭にわかるように全データから抜粋したデータ年表を添付し、概要と照合できるようにしました(この年表には、公刊資料が揃わなかったためCD-ROMでは割愛せざるをえなかった、セゾン美術館や水戸芸術館現代美術センターのデータも含めてあります)。今回は第11回目で、オリエンテーリングを取り上げています。
 概要は、毎月内容を更新して13回にわたって発表し、終了後にあらためて全内容をデータ分析の論文と共に冊子として刊行する予定です。

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オリエンテーリング(CD-ROMではカテゴリーNO.11に分類)


 当研究会でオリエンテーリングとカテゴライズしたものは、1989年におこなわれた世田谷美術館のオープン・ワークショップが最も早い。これは'92年度からミュージアム・オリエンテーリングと名称を変え、継続している。グループで展示作品についてのクイズを解きながら館内冒険をするというもので、作品鑑賞の準備活動とも考えられるが、オリエンテーリングの趣旨はむしろまず美術館という空間を体験し、慣れてもらうというところにある。94年度には、小・中学生対象の従来のものに加えて高校生以上を対象としたものも開始した。美術館を活用した冒険遊びという性格は同様だが、小・中学生向けが「見る」「考える」「想像する」ことを内容に盛り込んだ問題を考案しておこなったのに対して、高校生以上対象のものは、「世田谷美術館カルトQ」など難問、珍問を考案しておこなっている。子供用が訓練的な初級編であるのに対して高校生以上のものは、より娯楽性を加味した上級編を意図しているようである。

 オリエンテーリングという用語の使用は、世田谷で開始された2年後の91年におこなった名古屋市美術館の方が早い。ただし、名古屋はこの年の常設展「夏休み子どもの美術館」にあわせて8月に5回実施したのみで以後はおこなっていない。

 兵庫県立近代美術館は、92年学校週5日制導入に対応する社会教育施設等活用サークル支援事業の一環として「美術館はこわくない」と題して1回おこなった。このタイトルは、美術館におけるオリエンテーリングの目的を端的にあらわしていよう。

 滋賀県立近代美術館が94年におこなった小学生対象の「みんなで冒険美術」は、展覧会に合わせた企画で、探検、クイズといった他館と共通の要素を持っているが、落葉のアクセサリーをつくるといったワークショップ的な面もあわせ持ちながら、展覧会のギャラリートークと位置づけされている。

 東京都写真美術館は、総合開館記念ワークショップとして、1995年2月・3月に大人向け(中学生以上)と子供向け(小学校3年以上)のギャラリーオリエンテーリングをそれぞれおこなった。

 もともとオリエンテーリングは、野外でおこなわれる競技またはレクリエーション活動のひとつであったものを美術館内での活動に応用したもので、欧米で先行していた。日本への導入は比較的最近のことと思われ、実際、当研究会制作のCD−RO Mには5年分のデータしかないが、美術館がそれぞれ独自の工夫を加える傾向があるように思われる。上述したようにワークショップと組み合わせたものも見られるし、滋賀のようにオリエンテーリングと呼ばれないものの中にもこれに該当する、または類似のものが見いだせる。「美術館そのものの存在意義や社会の中での位置づけを中心とした、美術館巡りのような活動」へと展開していった宮城県美術館のオリエンテーション「美術館探検」も質的に非常に近いものと考えられる。

 このように、日本の美術館におけるオリエンテーリングは本来のスタイルが直に導入された場合のほかに、オリエンテーリングの持つ新たな要素、つまり参加者の能動的な参加、展示された美術品以外のものへの関心のひろがり、歩き回ったりものに触れて見るなど体を動かす事を通じての理解などを既存のプログラム、すなわちギャラリーツアーやワークショップなどの観点から取り込んだ場合、またいわゆるオリエンテーションの視点から導入した場合などがあるのではないだろうか。(河野哲郎)

 

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