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FOCUS=[アンケート]アート・シーン2001 .


・新しい世紀に、現代美術の新しい方向はありますか?
・2001年にはどんな「美術」展/運動/動向がありますか?

五十嵐太郎●建築
まず2001年に起こりうることは何か。
今年、竣工する建物は、すでに発表されたプロジェクトである程度はわかっているし、現状と変わらない。しかし、新しい世紀の開始ということで、若手の建築家か ら、20世紀と決別する何らかの運動やマニフェストが出るかもしれない。また極小と極大、つまり住宅と都市計画の両方から、新しい社会像の指針を考える展覧会が催さ れる(べき)であろう。
次に21世紀の建築の新しい方向はどうか。第1に素材の変化。すでに一部で試みられているが、紙やアルミニウム、プラスティ ックやリサイクル材など、違う素材は違う形態を導く。
第2に情報化。現在以上に、複数の建築家やデザイナーが共同するユニット派が増え るだろう。しかも、同じ場所にいるのではなく異なる場所にいながら、ネットワー クを結ぶ組織づくりが想像される。『建築文化』が作品紹介のCDROM化に踏み切ったり、『10+1』TNプローブがウェブ版を充実させたり、予定するなど、メディアのデ ジタル化は、すぐにとはいえないが、デザインの現場にフィードバックするのではないか。かつて写真を中心とした建築雑誌が近代建築を加速化させたように、新しいメ ディアはそれに適合したデザインを支援することになるだろう。メディアのデジタル 化がすすむと、より映像的で流動性のある建築が優位になるのではないか。
第3に社会的な要因。日本では少子・高齢化にともなう人口減少、世界では一部の地 域で続く人口増大が問題である。前者は既存施設のリサイクルと集住化の再編、後者 はスーパーモダニズム的な状況をひきおこすだろう。
第4に環境問題。これは21世紀に人間の活動を規制する強力なイデオロギーだが、建 築にも影響を与えるはずだ。例えば、サステイナブルな建築、洗練された増改築、リ サイクル材や間伐材を利用した建築、地域の気候特性から合理的に考案されたエネル ギー負荷が少ない建築の探求。そして自然か人工か、保存か開発か、といった単純な 二項対立の発想がズラされていくべきである。しかし、原理主義的なエコ建築も現わ れるだろう。
ところで、このアンケートを書く直前、10年ぶりに上海を訪れた。情報では知ってい たが、その変容ぶりに改めて驚愕した。ここでは、『ブレードランナー』の未来、 『鉄腕アトム』の未来、モダニズムの未来、アメリカン・ポストモダニズムの未来な ど、すべてが同時に実現している。この複数性こそが、とても21世紀的ではないか。

いがらし たろう 建築史]

井上雅人●ファッション
前世紀、ファッションは生産/消費システムの中において制度としてゆっくりと完成された。年に2回行なわれるコレクションという消費を加速させる装置の存在は、美を追求する行為そのものに大きな影響を与えた。絶えず移りゆくことが、構造にたいしては安定をもたらすということの発見は、究極の美へと一歩一歩近づくという進歩的な芸術観を嘲笑うようでもある。
そういった趨勢の中で、衣服における著作権の問題が浮上してきているということは注目すべきことであろう。ブランドの悪質なコピーといった単純で分かりやすい構図もさることながら、イッセイミヤケやリーバイスが訴訟を起こした相手が、知名度の高い企業であったということは示唆的である。衣服を知的財産として保護しなければならないのは、それらが技術的には容易に複製可能であるからにほかならず、高品質で低価格な商品を中心としたユニクロのようなブランドの出現と表裏の問題でもある。表現する行為を保護する必要性は論を俟たないが、そもそも階層的に差異を構築していくファッションのシステムとどうやって融和させていくのか、議論を要するところであろう。
その一方で、グローバリゼーションの流れにも着目しなければならない。いままでファッションはパリ・コレクションを中心とした世界マーケットとアメリカナイゼーションによって形成されると説明されてきたが、ここにきて日本を中心としたアジアマーケットの存在が強調されつつある。しかしこのことは、日本企業やアジアマーケットの成熟化や、日本を通してのアメリカナイゼーションといったことを単純に示唆するわけではないし、ましてやローカルの消滅、反対にアジアという地域意識の芽生えとして説明されるものでもない。グローバリズムやナショナリズムなどが複雑に絡んだ重層的な文化現象として、主体と集団と社会のせめぎ合いとして、細かく考察していかなければならないのである。
ファッションの差異を強調するシステムは、模倣的消費から批評的消費へと道を開き、マーケットや文化を細分化させた。もちろんファッションということばは狭義には衣服の流行を指すが、ロラン・バルトがモードという言葉を使って指摘したように、「購買のリズムが消費のリズムを越えて」いる状態は衣服に限ったことではない
。ファッションという現象は、「消費」を軸としたライフスタイル自体と、切っても切り離せない問題なのである。

★――Roland Barthes, Systeme de la Mode, Paris: Editions du Seuil, 1967.[邦訳=『モードの体系』、佐藤信夫訳、みすず書房、1972、p.408]

[いのうえ まさひと 東京大学大学院/ファッション批評]

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