シスレイ・ザファ「Stock Exchange」
シスレイ・ザファ「Pleasure our Flower」
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シスレイ・ザファというボスニア出身でイタリアのピサに住んでいる作家は、スーツケースひとつでいつも移動していて、実際はほとんど乗り物の中で暮らしています。彼に連絡をとる唯一の方法はホットメールという、30代前半の作家です。
「ヴァネッサ・ヴィークロフトに捧げる」という作品は、大変面白い作品です。ヴァネッサ・ヴィークロフトは、女性にハイヒールを履かせて、裸体で長い間立たせておく「リヴィング・スカルプチャー」的な緊張感のある物凄いパフォーマンスで知られる人ですが、シスレーの作品は、男の人たちに頼んでただ下着を着て座ってもらっているだけというパフォーマンスです。ヴァネッサに対抗するパワーレス・ストラクチャーということができると思います。シスレイが考えているのはこういう戦い方であり、非常に興味深い作品です。
もう一つのヴィデオ作品「ストック・エクスチェンジ」は、駅の通路に立ってただ彼が、株の仲介人をやっているパフォーマンスをしているものです。彼一人の存在でただの駅風景がストック・マーケット、移民問題を含んだヒューマン・マーケットに変わってしまっています。
「スイート・インヴェージョン(甘美な侵入)」は、一見ただ3人の男の人が笑っているポートレートに見えますが、じつはその人たちは犯罪者です。強盗やドラッグ・ディーラーなどの犯罪者に近寄って行って、打ち解けて、写真を撮らせてもらうのがどういうことなのかと考えていただけば分かると思います。これだけではなく、この写真にネックレスやイヤリングなどの装飾品をつけたりしてさらに誘惑的なものにしていく。「彼等に対して私たちは、一体どうアプローチすればいいのだろう」という真摯な試みをしている作家です。これは社会的芸術ですが、先ほどの黄色を追い掛けるのと違って、もっと恐い、普通ではできないことです。[長谷川祐子]
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