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FOCUS=ニユーマテリアル、ニュープロダクト
飯田都之麿
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ニューマテリアルとデザインの可能性
素材の原点
M.C.エッシャー「三つの寛狩り
M.C.Escher「三つの拡がり」 1955

「素材」ということを考えるとき、いつも私の脳裏に浮かぶ、原点とでも言うべき一枚の絵がある。
 鏡のような水面に漂う枯葉、水面の奥に潜む魚、水面に移りこむ小枝の拡がり。
エッシャーによって描かれ『三つの拡がり』と名づけられたこの絵には、多くの素材の概念が示されているように思えるのである。
「奥」に拡がる世界、「面」の上を拡がる世界、「反射」によって映し出される世界という三つの拡がりが、この絵の中に圧縮されている。固定されることなく無限に変化し、無限に拡がりつづける世界の重なり。
改めて素材を定義づけるのなら、「完成された状態であると同時に、未完成の状態。無限の拡がりを内包する、システムの中の点」と言うことができるだろう。素材とは、単なる物質という範囲を超えた、いくつものシステムが交差するような存在として考えなければならないのである。

プラダとドローグ
 今年3月にミラノで開催されたプラダの「Works in Progress」展は、プラダの新たな世界戦略の発表の場であった。コンクリート剥き出しの展示会場の中で、素材が卓上に延々と並べられた。コンセプトデザインはレム・クールハースとヘルツォーク・アンド・ムーロン。
プラダの飛躍はパラシュートに使われる「ポコノ」と呼ばれる軽量の工業用防水素材をバックに用いたことで、その存在を世界にアピールできたことによる。それを象徴するかのように、卓上に淡々と並べられたエキスパンドメタルの切れ端などの素材のサンプル。会場では同時に、東京に来年完成予定のショップの模型も展示されていた。その模型はエキスパンドメタルのサンプルをそのまま拡大したかのような外壁を持つ。「Works in Progress」展の展示品は、これから世界にできるであろう建築の縮小模型の集まりであることがわかる(つまり、その素材のもつシステムをそのまま拡大したような建物だ)。スケールや境界を超える力を素材は持っている。それをプラダは知っている。無限の形を生み出せる素材こそが、彼らのブランドなのだ。
 特異なデザインで脚光を浴びたオランダのドローグ・デザインは、独特の素材の扱いを見せる。彼らの素材は、ごく日常の生活の中から選び取られる。インダストリアル・ヴァナキュラーとも称される彼らの素材の選び方は、ハイテク工業素材や伝統素材など、きわめて多岐にわたるものだ。しかしながらそれらは日常生活の中で我々がよく見知っているものばかりであり、加工もあえて素材の原型を留めるようにしている。「見知っている」素材を合理的だが見慣れない形で提案する。このデジャヴュ的手法が、ドローグを世界の中でその存在を知らしめた要因であり、「素材の戦略」である。ドローグの中でも特に知られるテヨ・レミの、不要になった引き出しを集めて縛ったチェストの名前は「You Can’t Lay Down Your Memories」。つまり、思い出を引き出すのである。我々の記憶の中から素材を選び取るのである。
ドローグの手がけるインテリアもまた、遊び心に富むものだ。2000年10月にパリに完成した「Mandarina Duck」のショップでは、バッグを挟み込んでディスプレするカラフルなゴムバンド。バックの形に沈み込む、無数のステンレスのピンでできた壁。どこか日常の中で見た機能が新たに転用されている。こうしてドローグは、見知った風景と、新しい風景との間に、見る者を宙吊りにするのである。
PRADA「Works In Progress」展 Milan 来年完成予定のPRADA東京ショップ模型
図左=PRADA「Works In Progress」展 Milan 図右=来年完成予定のPRADA東京ショップ模型
出典=Domus April 2001
「Mandarina Duck」ショーケース
「Mandarina Duck」Pin-Wall▲「Mandarina Duck」Pin-Wall。無数のピンの壁。バックの形に沈み込み、バッグを壁に宙吊りにする。
Paris 2000
出典=Domus January 2001
▲「Mandarina Duck」ショーケースの中には2組の手袋が取り付けられており、手を滑り込ませて中の品物を掴むことができる。
Paris 2000 出典=Domus January 2001
「Mandarina Duck」カラフルなゴムバンドテヨ・レミのチェスト 図下左=「Mandarina Duck」
壁と一体化したカラフルなゴムバンドで、バッグを挟み込みディスプレイする。2000 Paris
出典=Domus January 2001
図下右=ドローグ・デザイン、テヨ・レミのチェスト。「You Can't Lay Down Your Memories」 1991
出典="DROOG&DUTCH DESIGN"
Centraal Museum, Utrecht

ニューマテリアル
先端技術を駆使して生み出されるものが一般的にニューマテリアルと言われるが、ニューマテリアルとは、必ずしも最新の技術によって生み出されたものでなく、プラダやドローグのように、「新たな可能性」を見出せたものでもあるのだ。他にも、例えば、トム・ディクソンが今年のミラノサローネで展覧会イベントで見せた樹脂のプロダクトは、新しい技術を誇示するものではなく、成型機械から押し出されるスパゲッティ状の樹脂を椅子やテーブル、ランプシェードなどの形に編み上げるシステムとしてニューマテリアルである。
ニューマテリアルとは何か?
マテリアルとは、新しい化学式を持つ原材料のようなものではない。デザインにおいて必要な素材とは、もっとシステムに近いものなのではないだろうか。
例えば、糸という素材が、編まれるという行為(システム)を通じて布になる。そこでは、新たな機能が組み込まれる。そして、布を素材にして、裁断され、機能が付加され、服になる。優れた服は、都市の光景をつくる素材となる。
こうした流れの繰り返しの中で、システムが編み込まれ、機能が圧縮されたものが素材である。素材は、完成と未完成の繰り返しの中の一点となる。
マテリアルの力とは、「可能性をどれほど圧縮しているのか」。その一言に尽きる。

トム・ディクソンの樹脂プロジェクト1 トム・ディクソンの樹脂プロジェクト2
トム・ディクソンの樹脂プロジェクト 出典=www.design-engine.com
The Domus Design Factory with Tom Dixon 2001 Milan Furniture Show

素材から風景へ
素材は私たちと風景を結び付けてくれる。
以前、オランダの先鋭的なファッションデザイナー、アレキサンダー・ヴァン・スロベに会ったとき、素材の持つ感覚について「ダイレクト・エクスペリエンス」であると語ってくれたことが印象的だった。見る者と対象とを「ダイレクト」につなげること。それは、素材の役割の一つである。
さらに素材の重要な役割は、機能の圧縮である。機能を圧縮することで、一つの素材が、プロダクト、家具やインテリア、建築にもなりうる。そしてジャンルを超えて、各々が溶け合うように連続的につながるのだ。
そうした素材は、どこか自然界に近い。ニューマテリアルたる条件とは、このように家具、インテリア、建築、風景を連続的につなげる素材である。

カリム・ラシッド
カリム・ラシッド「PLOB」2001 CAPP St.Gallery San Francisco
カリム・ラシッドの空間作品。透過性のあるプラスチックは光と音の機能を内包する。
それを一つの素材にして繰り返すことで、留まることがなく、境界を持たないプラスチックの風景が意図されている。

マテリアル・デザインの可能性
繰り返すようであるが、材料と素材は異なる。
近代工業建築の父と言われるジャン・プルーヴェは、スチールの性質を熟知していた職人としてだけではなく、軽量で、折り畳め、持ち運べて、組み立てられるといった、システムそのものを追い求めた建築家であった。彼が追求していたように、システムを含んだもののみが素材であると言いたい。
完成された素材とは、様々な可能性を孕んだ未完性さを持つものである。こうしたシステムを作り出すマテリアル・デザインこそ必要とされるのである。ある単純なシステムが境界やスケールを超えて、どんどん広がっていく。これが素材の力であり、この小さいシステムを見つけることがニューマテリアルを作り出すことである。

飯田都之麿「枯葉タイル」 飯田都之麿設計の水族館
図左=飯田都之麿「枯葉タイル」1996-1999
枯葉が水の上に落ちる風景をそのまま建築の素材として考え、建築の内部に浸透させたもの。
図右=水族館の一風景。2000 
単一の素材(イペ)で床と家具、さらには壁を自然界に存在する起伏のように仕上げた。
設計:飯田都之麿+tripod architects

[飯田都之麿/いいだとしまろ/建築家、飯田都之麿建築デザイン

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