FOCUS=ニユーマテリアル、ニュープロダクト |
紫牟田伸子
|
. |
素材と新しいデザイン・コンセプト
|
Droog Design
素材はすべてなんらかのプロダクトとなって私たちの目の前にあらわれる。 チタニウムを使った「PowerBook G4」や透明プラスチックの質感を生かした「iMac」やマイケル・ワンダース(Droog Design)のカーボンファイバーで編んだ椅子やペットボトルのように、私たちは日常素材を家具や日用品や電気製品として接する。素材の選択はデザインコンセプトの重要な部分のひとつでありつづけているが、かつてのように技術的に大量生産可能なのかどうかとかコストに見合うのかどうかということ以上に、リサイクルや廃棄処理方法の提案やすでに用いられている素材の利用法の変換、軽量化やカスタマイズに対する提案などがデザインのキーコンセプトになるプロダクトが近年多く見受けられる。牛糞を圧縮凝固して球根のパッケージとしたアンドレアス・ミュラー(Droog Design)や空気で膨らむ家具をつくるインフレート、生分解性プラスチックを使用したマクドナルドのカトラリーなどもそうだが、素材の意味性を具現化したプロダクトが出現し始めたのは近年の傾向といえるだろうか。 津村耕佑の「silky way」 竹や麻や紙などといった自然素材を用いたデザインで興味深い提案を行っていたのが、スパイラルで開催された「ランデブー・プロジェクト」展で発表された津村耕佑の「silky way」と題されたシルクの服である。ランデブー・プロジェクトは、素材や技術を開発してもそれを製品に応用する際のアイデアが欲しい企業や研究者と、アイデアはあっても技術や素材の情報が十分得られないクリエイターをランデブーさせ、新しいものづくりを試みようというプロジェクトである。 もともと既存の素材の新しい表情を発見するのがうまい津村耕佑は、東京農業大学昆虫機能開発研究室でシルクの再利用を研究する長島孝行博士とこのプロジェクトで出会い、シルクのリサイカブルな機能性と可変性に注目したという。シルクは「高い」という印象が強いが、リサイカブルな素材であることはあまり知られていない。シルクはたんぱく質であり、塩化カルシウムで溶解する。溶解したシルクたんぱくは、固形にも皮膜状にも成形が可能だ。染められていれば色素は残るが、溶解したシルクをまた利用することができる。また、我々が知っている養蚕のシルク「ピュア・シルク」のほかに「ワイルド・シルク」とよばれる野蚕のシルクがあり、野蚕の種類は何百もあり、インドネシアでは、野蚕の養蚕がプロジェクト化されているのだという。
こうしたシルクのリサイカブルかつ食品や化粧品などに利用される多目的性に注目した津村は、「silky way」で荒く編んだ野蚕のシルクニットをトルソに着せ、その上に直に蚕を這わせることで、蚕の吐き出すシルクを不織布のように絡ませてドレスを製作した。織り物ではないので、伸縮性はないが、積層する原糸が雲のようなテクスチャーを見せた。伝統的な自然素材はいわば永遠のリサイクル素材として注目されるが、リサイクルはもはやスローガンではなくデザインの必要条件となりつつある。津村と長島博士の試みは日本がかつて誇っていた伝統産業にも再びスポットをあてる契機になるかもしれない。 プロダクトとして人間?「RARE-BORG」 話はかわるが、先日ふとTVをつけたら、タモリ倶楽部でNHKの「プロジェクトX」のパロディ、「プロジェクトSEX:シリコンの女神をつくった男たち」をやっていた。「RARE-BORG(レア・ボ 技術の進歩は恐るべき勢いで進んでいるが、人工有機素材の開発にも注目したい。人工皮膚はもとより、プラスチックの人工筋肉や、シリコンチップの感覚装置と生体機能を連結させる実験の成功も伝えられている。有名なネズミの背中で培養した人間の耳であるとか、人間の部品の生体スペアがプロダクトとして売られる日も近い。素材とデザインの未来型の中に、人型や人体のプロダクトデザインが浮上しつつある。 |
|
|