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FOCUS=子どもと美術
大月ヒロ子
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子どもと美術館――インターネットの教育プログラム

 今年もとうとう夏休みが始まった。夏休みは子どもたちの季節である。そして美術館が子どもたちに向けて様々な事業を展開する季節でもある。いつの頃からか、夏休みの美術館、イコール、子どものためのワークショップの時期、子どものための展覧会の時期という図式が定着してきた。子どもとはいえ、忙しい日々を過ごす彼等から、まとまった時間をいただくには、この時期を待たなくてはならないのが現状だ。数時間から数日、あるいはひと月、美術館によって提供されるプログラムの内容や所要時間は異なるものの、子どもたちに何かいつもとは違った、新鮮な体験をプレゼントしたいと願う館のスタッフの熱い思いはどこも同じだ。みんなのお休みの時期こそが、美術館のかき入れ時、繁忙期。担当者にとっては文化のサービス業という言葉が身に染みるシーズンでもある。通常、各館の催しは定員の決められているものが多い。人気のあるプログラムは、おのずと先着順あるいは抽選となってくる。だから、こういったプログラムが限定された子どもたちだけの特権ということになってしまわないように、だれでもいつでも参加できるワークショップや、より多くの子どもたちが体験できる展覧会型の催しを提供する館も増えてきた。しかし、それでも、美術館に足を運ぶことが必要最低条件だ。実際に作品に触れ、また、作品を取り巻く空気そのものを味わい尽くせるのが美術館の魅力であるから、それは仕方がないことのようにも思える。けれども、その一方で、美術館と子どもたちとの親密性を高めながら、館や美術作品の魅力に気づいもらえるような試みで、それも、家にいながらでも可能なプログラムが出現してきているのだ。インターネットのホームページを道具に使う教育プログラムだ。館と子ども一人一人と密接につながっていくこのプログラムは、未知数の可能性を秘めたものだといえよう。ただしお断りしておきたいが、これがすべてというわけではない。このプラグラムで美術館や作品に興味を持ってくれて、次のステップでは実際に館に足を運ぶというが理想だ。
 この夏から東京国立近代美術館のホームページ上で始まった「とうきんびコレクション」もその一つ。これまで館が行なってきた地道な教育普及活動のひとつであるポストカード形式の子ども向け作品解説カード「鑑賞カード」を、ホームページの中で生かしながら、ひとりひとりの子どもたちの声をすくい取っていく試みである。ホームページ上にもうけられた「みんなのひとこと」の欄には、子どもたちからメールで寄せられる作品に対しての思いや印象が順次掲示されていくことになっている。国立の美術館の抱える永遠の課題として、どういった範囲のだれに向けて教育普及事業をしていけばよいのかというのがあるが、インターネットのホームページを使った試みは、その課題を軽々と飛び越え、拡がりを持ちつつ成長するおもしろいプログラムとなりそうだ。恒例の「小中学生のための鑑賞教室」も実施と同時にホームページに掲載されるという、素速い対応もふくめ、美術館という組織が、実は柔らかく人に寄り添ってゆけるものなのだとを感じさせてくれる。
 ちひろ美術館の「こどものへや」もきめ細かなメニューを用意している。ここでは、いわさきちひろが描いた様々な帽子の中から好きな帽子をクリックすると、その絵の全体像が現れるページ、作家の生涯についてのクイズやゲームのページ、セルフガイド的な記入ページなどがあり、とっぷりとちひろの世界で遊ぶことができる仕組みとなっている。
 これら国内の試みに先駆けて、アメリカのニューヨークの近代美術館では、もっと踏み込んだプログラムが提供されてきた。「アートサファリ」というプロジェクトだ。取り上げられている作品は、アンリ・ルソー、フリーダ・カーロ、ディエゴ・リベラ、パブロ・ピカソの各1作品ずつ。これらの作品をスタート地点にして、アクセスしてきた子どもや大人に対して、ギャラリートークの形式にのっとり音声と文字で作品についての思いを引き出していく。短い質問に対して、参加者は簡潔な言葉で答えるわけだ。館内のギャラリートークとは違って、この場合は文字で打ち込むのだけれど…。順次質問に答えていくと、自分の答えが最後にまとめられて表示される。これがなんだか詩のような仕上がりになるのも意外性があって嬉しいところだ。ほかの子どもや大人が書いたものも読むことができる。また、make your own artのページでは作画ソフトが用意されており、fantastic animals、my pet and me、animals from mycountry、ricycle for art、などそれぞれお気に入りのテーマで絵を描くこともできる。むろんそれらは美術館に送信して、みんなの作品と共web上で鑑賞もできるのだ。この試みは、インターネットでも、心理的に密に、館が来館者とつながっていけるということを証明したプロジェクトだと思う。ホームページに送信した自分の名前が、館側からの返信の文面の冒頭に記されていたりするようなほんの些細なことでも、利用者は館とのつながりを実感するものなのだ。
 独自のホームページを持つ館は多いが、このような一歩踏み込んだプログラムを提供している館はまだ少ない。広報的な役割や収蔵品に関するデータベースの提供、リンク集などはかなり充実して来ているが、今後はもっと大きな役割を担うようになるだろう。指導者や引率者に向けての手引書を配布する手立てとして、あるいは、参加型のネット上でのギャラリートークや作品紹介。また、ダウンロードしプリントアウトしたものを利用するような教育プログラムの提供など。
 夏に集中する子どものためのプログラムも大切にしたいが、時間も場所も問わないネット上の教育プログラムも選択肢のひとつとしてあって良いのではないだろうか。決まった時間と場所に、多くの人と情報が集まり、同じような動きを見せる事の多い現代の生活の中では、好きな時間にアクセスできるネットの気ままさは魅力的だ。

[おおつき ひろこ ミュージアム・エデュケーションプランナー]

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