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"Webness"という問題――インパクにみるウェブ表現の可能 渡辺保史

昨年の大晦日から「インパク」がスタートした。IT革命なるもののプロパガンダのため、政府が多額の予算をかけてこうしたネットイベントを1年間かけて展開することの是非はさて措くとして、ここに出展されている国・地方自治体・民間企業などのパビリオンを駆け足でめぐった印象をもとに、新しいウェブ表現の可能性について少し考えてみたい。 
当初から謳われているように、会期の1年間をかけて次第にパビリオンやコンテンツが拡充していく博覧会のため、開幕からひと月余りの段階ではまだ全貌が現れていない現状での印象を述べると、まずやたらと目に付くのが、Flashを使った動的なオープニングだ。ご承知のように、Flashはウェブコンテンツに動的な表現力と対話性をもたらすテクノロジーであり、その多彩な表現性の割にはデータサイズも比較的小さく、従来のダイアルアップ接続のユーザーにもストレスなく楽しめるコンテンツを作り込むことができる。しかしながら、どのパビリオンもこれだけ派手にFlashムービーを多用していると、アクセスしている側としてはいささか食傷気味だ。
そんな“Flash洪水”ともいえる状況の中でも、異彩を放った使い方をしているコンテンツがいくつかあった。一つは、J-PHONEグループの「Sky Pavilion」。その名の通り、空をモティーフとした対話性のある表現が中心となったサイトである。『空の名前』などの写真集で知られる高橋健二氏の写真をフィーチャーしたこのサイトでは、「ソラノイロ」「クモノカタチ」「ツキノコヨミ」「ホシノハナシ」といったサブテーマが展開されており、それぞれにFlashを用いたすぐれたインターフェイスが用意されている。例えば、「ソラノイロ」では、縦一直線に並んだ色のパレットを操作しながら、任意の色をクリックするとその色が含まれた空の写真がウィンドウに浮かび上がってくる。月齢ごとの月の容貌を、時間軸を超えてブラウズできる「ツキノコヨミ」も、私たちの想像力をぐっと伸ばしてくれる表現となっている。これらのFlashインターフェイスをデザインしたのは中村有吾氏という人物。「クリックする楽しさ」を喚起させるデザインとして見るならば、いま彼にまさるFlashの使い手は存在しないのではないかと思う。
一方、森ビルグループの「MID-TOKYO MAPS」もFlashのクレバーな利用法としては先にあげたJ-PHONEパビリオンと双璧をなすものといっていい。これは、東京という都市の隠れたレイヤーを様々な視座から掘り起こしていく、新しいタイプの対話的な地図インターフェイスで、東京都心にある各ポイントの高度や、他都市と比較した面積などを次々と重ね合わせていきながら、ふだんは住み慣れた都市に対する別の理解を促してくれる知的エンターテインメントに仕上がっている。
しかし、ウェブという環境は、単にサイトの中に格納されたコンテンツとユーザーの対話的な表現を実現するだけにとどまらないことは言うまでもないだろう。ウェブが、CD-ROMのようなあらかじめ作り込まれたパッケージのコンテンツと違う"Webness"(ウェブらしさ)を具現化するとすれば、どんな方向性があるのか。ウェブというメディア環境は、私たちにとってアクセスすべき別の何かへのインターフェイスなのではないか。むしろ、これから先、インターネットがあらゆる存在を繋ぎ込んでいくユービキタス(ubiquitous)なメディア環境へと進化しようとしているとき、サーバー内に蓄積された出来あいのコンテンツにアクセスする以上に、時々刻々と変動している、この「生きている世界」にアクセスするための動的なインターフェイスの環境としてウェブをとらえ、その可能性を模索している活動に、私などはインターネット上の表現の未来を強く感じてしまうのである。
たとえば、NTTデータの「NATURE NETWORK JAPAN」は、まさにネットにつながった自然をダイレクトに引き寄せる試みだ。昨年、カナダの太平洋岸から野生オルカの生態をストリーミングで中継した「オルカライブ」という先駆プロジェクトに続き、今年はどんな光景を展開してくれるのか期待がもてる。 また、大日本印刷の「CloudWorks」は、衛星から送られてくるグローバルな視点からの雲の動きと、地上から見上げる雲の風景とが交錯しつつ、そこに人々の想いが加わってゆく、共時的で共感的なコミュニティの実験として興味深い。
 本来、バーチャルで閉じたものではなく「実世界指向」のメディア環境であるインターネットの本質を考えるとき、豊かな未来を実感させるのは、この世界がもっているふだんとは違った姿を私たちに提示してくれる「窓」を開け放っていくような類のインターフェイス・デザインなのではないだろうか。


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