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青葉薫るアート・フェスティバル

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アートの森、入り口
アートの森、入り口

ガムラン音楽の練習場でもある スペース天。 寒天工場だったことから 「天」の名がついた
ガムラン音楽の練習場でもある
スペース天。
寒天工場だったことから
「天」の名がついた

 大阪の最北端・大阪府豊能町では五月の初めになっても、少し肌寒さを感じる。大阪といっても、市内からクルマで約一時間半。山あり谷あり、なだらかな斜面を用いた段々畑が続く。山桜や山ツツジが新緑に彩りを与え、美しい景色が広がっている。
 国道423号線から少し入ったところに、今回のフェスティバル「現代アートの森」の舞台となるエリアがある。看板の指示にしたがって歩いていくと、大きな音が聞こえてきた。アトリエの外に出した作業台の上で、グラインダーでなにかを削っているアーティストの姿に出会った。この付近は京都からも大阪からもちょうど同じくらいの地点にあり、アトリエを構えるアーティストが増えている。美術作品をつくる人には、広くて、ある程度の騒音が出ても許されるところが必要だ。同じように音楽をやる人にとっても練習場は欠かせない。勿論、賃借料などの条件も満たさねばならない。ちょうど、いろいろな頃合いがぴったりくる場所のようだ。
 森の手前に古びているが大きな建物が見えてくる。寒天工場だった建物に手を加え、ガムラン音楽の練習場として再生したのが〔スペース天〕だ。音楽学者であり、ガムランの演奏者でもある中川真氏(京都市立芸術大学助教授)が主宰する。ここには、大阪や京都から学生なども含め多くの人がガムランの練習に訪れる。なかには楽器がところ狭しと並んでいるが、その傍らに昔の名残の寒天を煮ていた背丈ほどの鍋がある。〔スペース天〕を少し登ったところに〈TeNBA-A(テンバエー)〉というギャラリーがある。ここは大阪市内で現代美術のギャラリーに勤務していた地元出身の古谷美奈子氏が1年半前に新たに建物をつくって開いたものだ。大きなガラス窓越しに見える風景が、それだけでまるで作品のようにも見える空間である。
中川博志のWorkshop「音楽」5月3日
中川博志のWorkshop「音楽」5月3日


 こういった環境のなかで、「現代アートの森 NO.1−耳を澄ます−」が開催されることになった。スペースの裏の森を使って野外でサウンド・インスタレーション作品「Valley」を発表したいと申し出たドイツ人アーティストのロルフ・ユリウス氏が希望した新緑が芽生えはじめ、田植えがはじまる前という時期に合わせるかたちで会期が決定した。この豊能町でアート・フェスティバルを行なうこと自体初めての試みで、地元の人の理解を得ながら、中川氏が中心になって今後も継続して行なっていくことを念頭に置きつつ準備が進められた。テーマも「耳を澄ます」に決まり、岩下徹氏のダンス「みみをすます」も野外で、鈴木昭男氏のサウンド・パフォーマンスは〔スペース天〕と野外で行なわれた。
 このほかにワークショップという形式で参加者もいっしょになって創作のプロセスに携わってもらうイベントも行なわれた。インド音楽演奏家の中川博志氏の「鳴る」、ジャワ舞踊家佐久間新氏の「動く」、鈴木氏の「聴く」、そして地元で子どもの自然造形教室「手づくりキッズ」を主宰する西野千保子氏の「植える」などだ。「アートの居場所」について討論するシンポジウムは、これまで岡山で取り壊しを待つビルを期限付で「自由工場」と命名して希望者を募って使用していた井上明彦氏、〔TeNBA-A〕の古谷氏を交えて、中川真氏の進行のもとに行なわれた。

TeNBA-Aではロルフ・ユリウスのドローイング及びインスタレーションが展示されていた
TeNBA-Aではロルフ・ユリウスのドローイング及びインスタレーションが展示されていた

ドローイングの上のアクリル板に外の風景が映り込んでいる
ドローイングの上のアクリル板に外の風景が映り込んでいる

 アーティストもいれば、空間もある。こうした条件がそろったところで、このイベントが仕掛けられたのは必然的なことだったのかもしれない。とはいえ、イベントを行なうには、アーティストの制作費やギャラ、交通費、チラシの製作など告知に関係する広報費用などさまざまな経費が発生する。今回は、共催した関西ドイツ文化センターの分担金、芸術文化振興基金の助成金のみに頼り、その他、音響機材はレンタル機材のほか、スタッフが個人の持ち物を集めまわるなどした。スタッフは学生や社会人たちがボランティアスタッフの募集に応じて集まった。個人がそれぞれの持つ能力を存分に活かし、あるいは自分の潜在的な能力を発見しながら、よりよい環境で作品に参加者が接することができるように努力していった。何日も泊まり込んで、ユリウス氏の制作を手伝ったり、通訳をした大学院生。ホームページを制作したアーティストで実行委員の土岐氏、イラストマップを作成した人、受付をかって出た学生、来てくれた人が休憩できるカフェを運営した人。さまざまな協力があって開催することができた。
 とはいえ、運営費としてお金はどんどんかさんでゆく。ここで会場に設置されたのが「ドネーション参加用紙」というものだ。普通は「寄付」と訳される「ドネーション」という言葉の意味をひろく捉えて募集している。(1)企画・運営(設営、アーティスト・アシスタント、ワークショップの企画など)(2)情報管理(HPの運営、ビデオなどの記録作業、カタログ制作など)(3)広報(チラシ制作・配布など)(4)寄付金(一口年間1000円で何口でも)(5)その他、ということになっていて、マネジメントの域まで達している。
 アートの森はこれからも続く予定だ。これを読んでくださった読者の皆さんも、ここで一つ参加してみてはいかがだろうか。

野外の森のなかでのロルフ・ユリウスのサウンド・インスタレーション 野外の森のなかでのロルフ・ユリウスのサウンド・インスタレーション
野外の森のなかでのロルフ・ユリウスのサウンド・インスタレーション

スペース天(左)と TeNBA-A(右の緑の建物)は 隣接している アトリエで制作中のアーティスト スペース天の少し坂の下に若い彫刻家のアトリエが2棟ある
スペース天(左)と
TeNBA-A(右の緑の建物)は
隣接している


アトリエで制作中のアーティスト スペース天の少し坂の下に若い彫刻家のアトリエが2棟ある
鈴木昭男「エコープロジェクション」サウンドパフォーマン ス 4月29日
西野千保子のWorkshop 「植える」5月4日
佐久間新のWorkshop 「ダンス」5月3日
鈴木昭男|
「エコープロジェクション」
サウンドパフォーマンス
4月29日

西野千保子のWorkshop
「植える」5月4日

佐久間新のWorkshop
「ダンス」5月3日



ギャラリーでの展示は5月21日まで
ギャラリーでの展示は5月21日まで

現代アートの森事務局
大阪府豊能町牧中田20-4( TeNBA-A内)
tel&fax. 0727-39-2444
e-mail furu-mi@db3.so-net.ne.jp
http://homepage.mac.com/forumten/
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