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関越高速〜横浜、美術館探訪記
――ハラ・ミュージアム・アーク〜群馬県立美術館〜横浜美術館

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牛島達治「記憶−風景」
牛島達治「記憶−風景」1996

笠原出「Sleep/Dream/Smile」
笠原出「Sleep/Dream/Smile」
1999 撮影:長谷川治憲

市川平「1999.12.24」
市川平「1999.12.24」
1997-99

 今年は、猛暑と雷雨に荒れ狂う東京の夏にどっぷり浸かってしまった。あまりに暑くて、ついに赤貧のライターもクーラーをGET! この痛い出費をカバーするためにも稼がねばならないところだが、夏はなかなか仕事に励めない。まともな休みを取らずに、こんなにダラダラ過ごしていたのはわたしだけだろうか?え。当たり前だって?ウ〜ン。やっぱり日本人は働き者だものね。
 そこで、せめて夏休みのない者にとっても、何か盛り上がるイベントが欲しいと考えて、夏ならではの遠出の美術館探訪を敢行した。伊香保のハラ・ミュージアム・アークと高崎の群馬県立美術館、そして横浜美術館だ。遠出と言うにはちょっと近場すぎるかも知れないが、それでも気分は十分に遠足だった。

 イケイケのドライブで灼熱の関越高速道路を走る。この日は、久しぶりの長距離運転だったが、手軽さを優先して車で行くことにした。高速を降りてからは、迷うこともなく伊香保グリーン牧場に到着。広大なグリーン一色の草原のなかに磯崎新の建築による美術館がある。黒い外壁ながら室内は、自然光がたっぷり入る明るいデザインで、小振りでも均整が取れていて美しい。会場では、担当学芸員に案内してもらい、作品解説をしてもらった。
 今回の展覧会チラシに『高原の緑に囲まれた美術館で夏休みの一日を過ごしませんか。』とあるように、“アートは楽しい”は、夏休みの一般観客をターゲットにした美術館企画ですでに10回目を数える。ホリデーということだから楽しい展覧会ということで、現代美術でも一般人に理解しやすいものというのが優先されたらしい。そこで家族連れでも簡単に喜べる、動くもの、触れるもの、カラフルなもの、カワイイものといった作品が多く選ばれたようである。
 多くの作品は、すでに東京で見知っていたこともあって、新鮮みに欠けたように思う。それより期間中に牛島達治のワークショップとして、参加者と共同制作した「空の声」という立体作品が、屋外のグリーンなかに点在していて、興味をそそられた。空に向かって建てた細長いポールから風をひろって、下方の耳もとで微妙に変化した風の音が演奏されるというものだ。単純だが、自然のなかでは、こうしたアナログなものが心地よい。東京から逃れてきたものにとっては、都会では見れない、体験できないような何かに触れたかったのかもしれない。
 この“アートは楽しい”は、10周年を迎えて今回の企画でいちおう一区切りになるが、また新たな方針で来年から(新しい企画が)始まるということだ。さて、ランチは美術館脇のカフェで、牛が草を食む姿を見ながらのんびり過ごす。ウーン。なかなか夏休み気分じゃないの。ハラ・アークは、夏休みに東京から遊びに行くのは、ちょうど良い距離といえそうだ。次回は温泉でも入ってもっと豪華にゆったりしたいところだが。

森田多恵「天体と海胆」1998
森田多恵「天体と海胆」1998
撮影:長谷川博士

小泉雅代「眉−Eyebrow II」
小泉雅代「眉−Eyebrow II」
1998
撮影:長登志夫



 伊香保から高崎へは帰路方向ということもあって、現代美術のためのウィングが増築された群馬県立美術館は立ち寄ってみたい美術館である。“群馬の森”というやはり広大な公園のなかにあるが、今回は閉館間際になってしまったので、公園には立ち寄らずに館内をすばやく見て回ることになった。あまり地方の美術館を訪れる機会のない私にとって、この県美のコレクションの内容やサイズの大きさにはびっくりした。群馬県ってお金持ちなの? どうやら大物政治家の出身地だというのが関係あるような気もするのだが…。そしてハラ・アークと同様に、建築は磯崎新なのである。しかも当然のように美術館の脇には宮脇愛子の作品が、ココでもしっかり常設されてあった。
 今回、群馬県美を見ておきたかった理由は、「群馬青年ビエンナーレ'99」に招待出品しているオノデラユキの作品を見たかったからである。彼女は日本でも個展やグループ展に参加していることもあって知名度があるが、このところパリの友人から彼女の名前を何度も聞く機会があって、さらに注目度が高くなっていたのである。
 彼女の作品は、抜け殻の洋服がポートレートのように空中に浮かんでいるモノクロ写真の作品で知られている。作品は、紙ではなくステンレスのような銀色の鉄板にプリントされていて、木製の足(たぶん洋服用のトルソの足に使うもの)が着いていて、ランダムに会場内に展示されている。この鉄板が意外と大きいのと、茶色の木製の足とのバランスや質感の違いが気になるのは私だけかな。写真のイメージだけでも充分に服たちのためのポートレートであることが伝わるのに、ちょっと過飾な演出に思えてしまったのだが。

 その点では、その他の作品はストレートな写真表現ではっきりしている。「C.V.N.I.」と「P.N.I」のそれぞれのシリーズは、未確認飛行物体(objet volant non iden tifie)というフランス語を物体の部分を“缶”(conserve)と“ポートレート”(portr ait)とに入れ替えたもので、タイトルはちょっといじくり過ぎたようにも感じるし、単純に“缶”と“ポートレート”といっても伝わるものだ。だが、ふたつともぼんやりした幻想的な空間に現れる缶と人の顔という点では、未確認なものというアンビキュアスな実体を追求していることは理解できる。ピンぼけ写真やダブルフォーカスとも違う、被写体であるオブジェ事体がぼんやりしているといったらいいだろうか。写真なのに絵画的表現といえるかもしれない。特に「缶」の作品は、ひとつの缶が、空中にさまざま方向を向いて飛んでいる情景のものだが、シュールなイメージと荒れた粒子による点描絵画ともいえる従来の写真表現とは異なる性格の作品を提示している。
 さて、県美でも「こどもとおとなの美術入門:不思議な美術」という夏休み企画があって、作品展示が子供向けに低かったり、各コーナーで質問ボードがあったりなど、美術に親しむための工夫が随所にされていた。ここで展示されている作品が、結構な名作級だったりして驚きながら見ていたら、監視の人に『傘もってます?』と声をかけられ、外はむちゃくちゃな豪雨になっていることを知らされたのだった。
 帰りはひたすら激しい雷雨で視界がほとんど見えない状態で突っ走っていたが、この極限状態で、スイスの映画監督アラン・タネールによる『ジョナスは2000年に25歳になる』という映画を思い出した。そうだ。あの作品をもう1度みたい。だって2000年になるじゃないの。しかも、こんなことまで考えてしまった。こんな豪雨のドライブという危険を乗り越えられるんだから、今年最大の真夏の話題であった「ノストラダムス大予言」をきっと私は乗り切れたのだろう。あぁ良かった。

青木野枝「無題」1996
青木野枝「無題」1996

リュードヴィカ・オゴルセレック「結晶した空間」
リュードヴィカ・オゴルセレック
「結晶した空間」1995
ポーランド、レグニツァ美術館
でのインスタレーション
photo(c)Czeskaw Chwiszczuk

 さて、横浜美術館「世界を編む」展は、ぎりぎりセーフの最終日に行った。最終日には、いろんな人がやはり滑り込みできているものだ。回覧中にたくさんの美術関係者にあってしまって、彼らの熱意に同調しながらも思うのである。とても熱心なみなさんは、ホリデーも無いのでしょうか?
 横浜美術館はすでに10周年で、今回の「世界を編む」展は、それを記念する展覧会として企画された大掛かりものだった。「編む」というプリミティヴでアナログな行為が美術のなかで、これまで如何に複雑に組み込まれてきたかを考え直すものとなった。展覧会は、「構造と形」、「文化と身体」、「自然と人間」という3部構成になっているが、この構成のタイトルには、あまり深い意味を感じ取れなかった。むしろ「技法としての編む」、「社会と編む行為」、「自然素材で編む」といったほうがストレートで分かりやすかったように思うし、無理に3部に分ける必要はなかっただろう。基本的に、編む技法からインスピレーションを受けて、既成のものと異なる作品を創造しようとする作家の意志を汲み取ろうとすれば、それをひとつの「編む」で括った方が、力強いものになったかもしれない。いずれにしても、造形的なアプローチで編むことを用いる場合、社会的メッセージを編む行為に入れた場合、プリミティブな行為や素材を編むことで作品した場合について、言及していることは明らかだ。
 それよりは、編むという表現というものをアーティストが如何に多様に考察しているのかということに感嘆があがると言えるだろう。糸やひもなどの素材を編むという直接的な表現から、物と物を接続させる行為、または物と事柄(コンセプト)を繋ぐものなどが、さまざまな素材や技法によって制作されていた。編むというものには、そうした物事を交差させていくインヴィジブルな行為が含まれるということである。従来の古典的な編む技法にこだわらずに、こうしたコンセプチュアルな表現も、本展覧会の範疇に入れたことは、大きな広がり見せて意欲的なことだったといえる。
 反面、どうしても工芸作品のなかに編む手法が多く、これらの作品と同等にファイン・アート作品を展示することで、双方の作品の傾向や違いが明確になった。このように、工芸と現代美術をひとつの展覧会に集合させたことは、いままでにない実験的なことだったのかもしれないが、融合することはできなかったように思う。むしろ大きな隔たりを明確にさせたことで、今後、ますます現代美術と工芸との溝が広がっていく懸念を暴露したといえるかもしれない。

 それにしても、久しぶりのみなとみらいエリアは、連立する高いビルにたくさんのレストランやショッピングストリートができていて、びっくり。すっかり、オノボリさんである。思わず2001年のトリエンナーレはいったいどこで行われるのかしらとチェック。ココなら外国からの観客にも、まずまずのホテルとアトラクションはあるようなので、いちおうクリアしてるかな。でも道には迷いそうだね。それにしても、トリエンナーレは実行されるのであろうか?その後の動きはまだ知らされていない。さて今回の横浜行きは、やはり夏休み企画として帰りに中華街でパーッというのも忘れずに組み込んだのだった。アート三昧の後の一杯。これがイケルのよね。

(※上の画像はクリックすると拡大して見る事ができます。)

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アートは楽しい10:天国で地獄
アートは楽しい10:天国で地獄

会場:ハラ・ミュージアム・アーク
会期:7月3日〜9月26日
出品作家:市川平、牛島達治、大岩オスカール幸男、笠原出、小泉雅代、杉戸洋、奈良美智、森田多恵
連絡先:群馬県渋川市金井2844 伊香保グリーン牧場
tel: 0279-24-6585 fax: 0279-24-0449

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群馬青年ビエンナーレ'99招待部門:オノデラユキ展
群馬青年ビエンナーレ'99招待部門:
オノデラユキ展

会場:群馬県立近代美術館
会期:8月7日〜10月3日
連絡先:群馬県高崎市岩鼻町239
群馬の森
tel:027-346-5560 fax:027-346-4064

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世界を編む展 /エミリー・ベイツ「三つのドレス:ブロンド、赤毛、ブルネット」
エミリー・ベイツ
「三つのドレス:ブロンド、赤毛、
ブルネット」 1994
高さ160cm 人の毛髪

世界を編む展

出品作家:青木野枝、ピエロット・ブロック、真イケル・ブレナンド=ウッド、リチャード・ディーコン、クスチャン・ジャカール、ジョン・マックウィーン、レベッカ・メデル、マーティン・パーイヤー、フランソワ・ルーアン、関島寿子、エミリー・ベイツ、キャロライン・ブロードヘッド、オリヴァー・ヘリング、ナオミ・ロンドン、マーゴ・メンシング、ノーマ・ミンコヴィッツ、キャサリン・オウエンズ、関次俊雄、ローズマリー・トロッケル、マリネット・クエコ、アンディ・ゴールズワージー、マルック・コソネン、熊井恭子、リュードヴィカ・オゴルセレック

会場:横浜美術館
会期:6月26日〜8月22日
連絡先:神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
tel:045-221-0300 fax:045-221-0317


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