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若さがウリって素晴らしいです
神戸アートアニュアル99「私⇔」

※写真をクリックすると大きなサイズで見られます。
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トミアサエ「森のクロス」
神戸アートビレッジセンターの玄関を飾ったトミアサエ「森のクロス」

トミアサエ 「森のクロス」部分
トミアサエ
「森のクロス」部分

「小川たいつプロジェクト」当選祈願グッズ
小川しゅん
「小川たいつプロジェクト」当選祈願グッズ

「小川たいつプロジェクト」投票箱
小川しゅん
「小川たいつプロジェクト」投票箱

「小川たいつプロジェクト」選挙事務所
小川しゅん
「小川たいつプロジェクト」選挙事務所

 「神戸アートアニュアル」展(神戸アートビレッジセンター)も今年で4回めを迎えた。今回のテーマは「私フ 」。この展覧会はすでに関西では、若手アーティストの登竜門的な展覧会として位置づけられている。
 実行委員によって選ばれるアーティストの条件は、それぞれの感性で、美術という表現メディアを通して、創作活動を行なっている現役学生か、27歳未満ということだ。このあたりの年令によるくくりというのもかなり珍しいのではないだろうか。

 「私」とさまざまなものとの関係をテーマに、8名のアーティストが今回は出品している。8通りの個性が光る。開催会場である神戸アートビレッジセンターの建物のファサードをつかいインスタレーションをしたのがトミアサエ。「熱帯雨林に迷いこんで、入り口をみつけたらそこに大きな太陽があった」といったストーリーをつくりたくなるような作品だ。
 自動ドアが開くと、銀色の投票箱が目に入る。スーツ姿で眼鏡をかけた女性が、「小川たいつをよろしくお願いします。こちら投票用紙になっております」と手渡してくれる。いったい何の選挙なのか?小川しゅん一の出品作『小川たいつプロジェクト』は、政治的な背景はなにも持たないものだ。だが、日本の選挙運動をそのままコピーしている。テント張りの後援会事務所には、頬に力の入った笑顔に、意味不明のキャッチコピーを記した候補者ポスター。大きなダルマ、樽酒。三種の神器(?)ともいうべきものがそろえられている。小川は、自ら「小川たいつ」候補となり、車に乗り込み、街頭宣伝までやっているというから笑ってしまう。斜に構えて社会をみるのではなく、彼の笑いのツボに入った馬鹿馬鹿しさを、そのまま作品にしてしまった。展覧会最終日に近い11月14日には「当選会」を行なうという。花束贈呈に、鏡割り、万歳三唱をきっとやるのだろう、と読めてしまう。わかりきっていることを結果をねじまげずにやってしまう。75年前後生まれの世代の彼らに、どういうわけかよく見られる傾向だ。いったい何の選挙なのか、と市民から問い合わせの電話がいくつか主催者にかかったりしているらしい。この作品については、それ以上に語るべきことはない。現代美術に普段は興味を持たない人たちにそんな電話をかけさせた、「それでオーケーじゃない」と筆者は思う。
 この8名のなかでみると、津上みゆきのタブローがもっとも保守的にみえる。出品作家のなかで、発表歴をもっとも積んでいるのも彼女だ。ここ1〜2年でとくに作品に冴えが出てきている。描きたいものがはっきりしていることが、見ているものに伝わってくる。泉依里の版画は、日常生活のなかで自分の目に見えたものを、白い四角い紙に写していく。とても大胆に構図をつくっており力強い。
中本律子「milk」
中本律子「milk」

 館内に異臭を放っているのは、中本律子の『 milk 』 。壁にずらりと並んだ哺乳瓶から格子のはいった黒い鉄板のうえに、ポタポタと乳が落ちる。その作品の真横の壁には肉を接写し拡大した写真がライトボックスの光で照らされている。
 階下の展示室では、今年のキリン・コンテンポラリー・アワードの優秀賞を受賞した束芋(たばいも)の新作映像インスタレーションがあった。BGMに延々と鼻歌のように流れているのは、日本の国歌に定まった曲だ。暗いブースのなかに立つと、目の前にパースのついた横断歩道と、歩行者用信号機がある。正面の壁いっぱいに映し出された映像は、木版調のアニメで、「日本的なるもの」をイメージさせる。個人的には新聞やTVのニュースに出てくる社会的状況や政治的なことに感心がないという。「世の中で起こっているさまざまな現実にあまりにも無関心な自分自身を出したもので、批評的な態度でつくっているのではないんです」などとさらりと言ってのけてしまう。ラストのセーラー服の女子学生の脱糞シーンは、さまざまな意味を掛け合わせていて、唸らされてしまった。
片岡健二「yes.maam」
片岡健二「yes.maam」

片岡健二「yes.maam」
片岡健二「yes.maam」

国谷隆志「あの空の下で」
国谷隆志「あの空の下で」

 片岡健二は、憧れの女性のポートレイトを描き続ける。聡明そうな容姿のモデルは、実際に片山が理想とする実在のある一人の女性だ。いずれも真正面を向いているが表情はそれぞれ違う。絵を見ようとすると、大きな画面に描かれた顔に見つめられることになる。
 国谷隆志は、詩人が天に向かってひとり呟いているかのようなインスタレーションをつくった。黒い壁面に照明がドラマチックなりすぎて、芝居のセットのようになってしまっていたのが気になった。

 自身が作家でもある現役の美大教員が、実行委員に名を列ねアーティストのセレクトを行なう。大学選抜展ではないのだが、芸術系大学が多い京阪神のネットワークを存分にいかした、関西ならではの展覧会といえるだろう。学生時代から頭角をあらわしはじめていた実行委員の教え子が含まれていたりする。若い才能を見抜くのはたいへん難しいことだが、時間をかけてみているために、間違いはない。ただ、寄せ集め的なところがあるために、まとめていく段階で、無理をしているように見える。選ばれたアーティストは、テーマや関連企画などを実行委員と協議しながら、自分たちで中身をつくっていくことが許されている。ここに選ばれた作家は恵まれた場を与えられていると思う。皮肉な見方をすると、保護者つきの展覧会という部分も感じる。
 80年代に60年前後生まれの東京芸大や京都市立芸大の学生がオーガナイズした「フジヤマゲイシャ」展というグループ展があった。いまは、海外でも活躍するようなアーティストたちが、当時そこで発表していた。まだ未成熟であったが、自分たち自身でやっていこうという元気があった。時代が変われば、風潮も変わる。筆者が歳をとったせいだろうか、一番の感想は「若いということは素晴らしい」ということであった。

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神戸アートアニュアル'99「私フ 」
会期:1999年10月27日〜11月15日
会場:神戸アートビレッジセンター http://www2.osk.3web.ne.jp/~kavc/
出品作家:泉依里/小川しゅん一/片岡健二/国谷隆志/束芋/津上みゆき/トミアサエ/中本律子

過去のテーマ
・神戸アートアニュアル'96 
・神戸アートアニュアル'97「artport 」
・神戸アートアニュアル'98「映像考/…」〜現代美術における映像性の新たな展開〜



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