さて、すっかりお客さん気分で浮かれていたら記者発表が始まった。近代美術館に限らずふたつのサテライトギャラリーを持つテイト・ギャラリー(つまりTateという名前のギャラリーが4つある)の総合ディレクターであるニコラス・セロータを中心にテイト・モダンの館長となったスウェーデン出身のレア・ニティヴや本館の建築デザインを行ったヘルツォーク&ド・ムーロンのジャック・ヘルツォークなどの錚々たるメンバーが鎮座していた。もちろんBT(ブリティッシュ・テレコム)などの大物スポンサーや官僚たちも同席していた。出席者たちは、質問には小気味良く答えていた。特にアーツ・カウンシルや文化庁のお役人たちが、テイト・モダンの存在意義を巡って積極的にフォローしているところはさすが。日本の官僚であればスピーチはだいたい中身の無い祝辞で終わり、何を言ってるのだか不明な返答に終止するのが必至だ。
さて、本館の様子だが何しろデカイのだ。館外の緩やかなスロープを降りていくとエントランスがあって、そこから向こう側の端まで吹き抜け(奥行155m×高さ35m)なのだ。ここをタービン・ホールと呼んでいるのは、火力発電所の名残りである。左手半分が通常の展示空間で7階層になっているが、中央はすっかり吹き抜けで天井から自然光が入るようになっている。あまりに高さがあるので天井という存在があることも忘れそうである。それは、まるで空だ。その大きな吹き抜けにルイーズ・ブルジョワのコミッション・ワークがディスプレイされていた。今年89歳になる彼女が今世紀を代表するアーティストとして、英国最大、いや世界最大の近代美術館のために新作を披露したのである。彼女の新作は大きく分けて2作品。ひとつは、おなじみクモの彫刻であるが、これまでの最大の大きさであろう。人の高さが足の第一関節にも届かない。これが、中央に横断している回廊の上に設置されていて、入場者たちにとって1番先に目に入る作品である。次の作品は、このクモよりさらにデカイ3つのタワーである。これは、それぞれ観客が登れるようになってるので、インタラクティヴの作品かもしれないが、このぐらい大きくなると建築のジャンルに入れるしか無いだろう。すでに人間のスケールを遥かに超えた彫刻なのだ。高齢のため作家は1度もこの会場を見ていないし、今回のオープニングにも出席しなかった。本人自身が1度も見ることもない作品になるかもしれない。それぞれのタワーには、上まで行った者にしか体験できないような仕掛けが施されている。これは登ってみるしかないだろう。でも詳細は、ここでは秘密にして実際に行ったときの楽しみにとっておこう。
それにしても驚いてしまうのは、これがパーマネントではなくて、今年限りのテンポラリー展示だということだ。スポンサーが5年がかりでこのホールの作品制作に出資していることもあって、毎年作家が変わってコミッション・ワークを発表するというものだ。いったい、この巨大作品は今後どうなってしまうのか?どこに仕舞うんだ?という質問が集中していたが、関係者の答えもまだ未定だそうだ。また倉庫に困って新しい美術館が必要になるのだろうか?まるでラビリンスに迷走するような話である。
テイト・モダンの凄さは、まだまだ語り尽くせない(私が述べた事はほんのちょっとだけだよ)が、記者会見や展示取材、写真撮影となど数えきれないことをひとりでこなさなくてはいけなくて、ホトホト疲れてしまった。その所為にしようと思うのだが、取材の途中でカメラを紛失してしまった。やられた〜って感じだ。会場には関係者しか入場してないとはいえ、この日は世界中から人が集まっていた。まったく街角で紛失したのと同じことである。それでも、今回はカメラを2台用意していたこともあり、フィルムを失くすよりまだマシだと思ったほどである。もう1度撮影しなくちゃいけなかったら、そのほうが地獄だからだ。
もうこれ以上は会場を歩けない…。足がただの2本の棒である。帰ろう…。それほど大きなみごたえのある美術館である。それでも美術館のブック・ショップがやっぱりいいのだ。ついつい買ってしまって、もうこれ以上は無理だ…、と言いつつ買い漁る自分が怖い。これ以上、荷物は持てないよ…。
それでも、夜はアメリカの有名画廊であるガゴシアン・ギャラリーのロンドン進出をお披露目する1夜限りのド派手なイヴェント、ヴァネッサ・ビークロフトのパフォーマンスを見に行った。今回は赤毛の女性が20人がヌードになった。すっごい群集だ。裸ということで観客はさらに増長されたようである。ついでにアレキサンダー・ラホーの新作展も近所なので行ってしまった。どこに、そんなエネルギーが残っているのか。これだからロンドンは楽しい。それにしてもヘトヘトだ〜。アリソン・ギルとベトナム料理を食べているころは、朦朧としてきた。昨日は、ジュン・ハセガワとごはんを食べたし、毎晩アーティストと過ごせるところもロンドンと言えるかもしれない。
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ルイーズ・ブルジョワ
「ママン」1999 鉄、大理石
9.27×8.92×10.24m
photo: Emiko Kato
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Collection 2000 Tate Modern
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ファン・ムニョス
Towards the Corner
1998 (c)The artist
Lent courtesy of the Goodman Gallery, New York
photo: Marcus Leith
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トニー・クラッグ
Britain Seen from the North
1981 (c)The artist
photo: Mark Heathcote
テイト収蔵1982年
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フルクサス
テイト・モダンでのインスタレーション
History/Memory/Society:
Everything as Modern
photo: Mark Heathcote
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