フォーカス

視覚表現の可能性とアートの無限性を見せた異質な展覧会二選

梁瀬薫

2013年02月01日号

境界と束縛、限定と解放は現代社会におけるアートが向き合うテーマ
Bound Unbound: Lin Tianmiao (林天苗 リン・ティエンミャオ)

Asia Society
http://asiasociety.org/new-york/exhibitions/bound-unbound-lin-tianmiao
2012年9月7日〜2013年1月27日


Proliferation of Thread Winding, 1995 Photo © Michael Bodycomb

 リン・ティエンミャオは現代中国美術を代表する女性作家だ(1961年中国山西省生まれ。北京在住)。幼少の頃から東中国文化と工芸美術を親から譲り受け、手先の器用さを生かし、後にテキスタイルデザイナーとして成功する。政治的にも経済的にも中国が揺れていた80年代にはアイ・ウェイウェイなどの作家同様、自国を離れる。95年に中国に戻るまでニューヨークで制作。
 今回のニューヨークでの展覧会ではこれまでの作品を含め、新作や未発表の作品、ビデオ作家の夫、王功新(ワン・ゴンジン)とのコラボレーションなど大規模な個展となった。白い木綿糸で丹念に巻き覆われた800個ものオブジェによるインスタレーションや、布や糸を使った身体のインスタレーションはやはり圧巻だ。同じように身体をモチーフにするキキ・スミスやルイーズ・ブルジョアのアプローチやジュディー・シカゴが表現するフェミニズムとはしかし異なる。また今展で一番印象深かったのは、カラフルな絹糸で巻かれた部位の異なる骨「All the Same(全部同じ)2011年」の作品だ。大きな骨から人体の一番小さな骨まで順番に、美しい色のグラデーションが続いていく。リン独自による高度なテクニックで秩序を守りながら糸が本来の形を覆い隠していく。また骨(人口)の一部が何かの道具に再構築された作品「More or Less the same(多かれ少なかれ、全部同じ)2011年」にしても、木綿糸が巻かれた生活用品にしても、覆い隠されたことによって、新たに日常の記憶や本質が呼び覚まされることになるのだ。リンはフェミニズムを示唆する糸という素材を自由自在に操る。
 「骨は世界に残された唯一の完全なオブジェ」だと言明する。「骨にはヒエラルキーも文化も階級も政治も互いの社会的権利も無い。私の想像力によって骨は変化し、継続し、あるいは再媒介する。また私の身体として作品に取り入れることもできる」。


Bound and Unbound, 1997 Photo © Michael Bodycomb


Chatting,2004 Photo © Michael Bodycomb


All the Same ,2011© Michael Bodycomb


Installation view[筆者撮影]

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