フォーカス

ニューヨークの夏はアウトサイドアートの旬

梁瀬薫

2013年07月01日号

United Enemies by Thomas Shutte/ユナイテッド・エナミーズ

セントラルパーク南側入り口(Doris C. Freedman Plaza)
2013年3月5日〜8月25日


セントラルパーク入口

 この春からセントラルパークの入口広場に2体の銅像が設置され、その奇妙な形態が注目を集めている。公共空間の銅像と言えば、歴史に名を残した人物の像が思い浮かぶが、他の都市同様、ニューヨークでも市内や公園など至る所に設置されている。残念ながら、それらは普段は気にも留めない存在と化しているが、同広場にお目見えしたブ銅像は、サイズの大きさだけではなく、まず誰の目をも釘付けにしてしまう。これらは「ユナイテッド・エナミーズ」というタイトルの作品で、トーマス・シュッテ(1954年ドイツ生まれ)が1990年初めから制作しているシリーズの一部である。2011年にはロンドンのサーペンタイン・ギャラリーで同シリーズの大きな展覧会が開催されて話題となったがアメリカでは初公開となる。
 高さ約3メートルの2体は、それぞれ凄まじい形相をした男性二人が布で巻かれ、縄で縛られ、三脚で立っている。拘束され、苦しみもがいている様は悲痛だ。このような歪んだ顔は、18世紀のドイツ人彫刻家フランツ・メッサーシュミットの悲痛な顔の彫刻作品やフランス人アーティストのオノレ・ドーミエの諷刺画も彷彿とさせる。シュッテの作品はタイトルどおり、まさに「敵同士の同盟」。これは1992年にローマで対立していた二人の政治家の悪事が発覚し投獄されたという政治問題からヒントを得た諷刺作品だという。個々は分離しているようでも対で、並行上に出現する……。それはしかし世界の終わらない戦争や民族間の闘争、政治の世界の事情だけではない。シュッテは作品に、家庭崩壊や自己との葛藤、個人の感情までも同じレベルでとらえ、混入させているのだ。

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