2018年11月01日号
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フォーカス

【ロサンゼルス】ジェントリフィケーションの前線と前衛アートの共存思考

キオ・グリフィス(ヴィジュアル・サウンド・アーティスト、キュレーター、デザイナー)

2018年03月01日号

移民が流れ着く地方都市のような大都会、ロサンゼルス。映画都市でもあるこの街は、半世紀前に計画的に創造され、マシンカルチャーを中心に動く、砂漠から蜃気楼のように実現した未来都市である。その未来都市も、映像世界で予知された2010年代に到達するとレトロ化して見えるものだ。テクノロジーのスピードと未来への遠い憧れが交錯した状況のなか、大小様々なアートスペースが登場し、ロサンゼルスはようやく美術の首都として変貌しつつある。他方で、激しいジェントリフィケーションへの地元住民の反発がアートスペースに向けられる現象も起きている。

増え続けるオルタナティブスペース

この不確実で不定形な有様も、西海岸の文化の特徴なのだろう。長い間、ニューヨークのアートシーンに反抗するスタンスを維持することでアウトサイダー・アート、サーフ・スケート・カルチャー、ロウブロウ、LAパンク、メタル、ダブ、ノイズなどのオルタナティブな表現方法が生まれた。都会の中の難民や移民のコミュニティーがパッチワークのように縫い合わされ、新しい国が本格的なエスニック・フュージョンから生まれ、その狭間で育ったアーティスト達が次世代の実験的な作品を次々と発表している。

The Main Museum

1972年、ローリング・ストーンズのミック・ジャガーとキース・リチャーズが、イギリスからの課税や南フランスのドラッグ生活から逃れ、流れついたのはLAダウンタウンのMain Street。それ以前は銀行街だったこの地区は、いわゆるジェントリフィケーションの発端になり、10年ほど前から激しい再開発が進む。この地区で2020年に開館予定のMain Museumは、LA在住のビジュアル・アーティストやパフォーマンス・アーティストを中心に紹介する他、コレクションを持たずに、レジデンシーの運営を軸としてコミュニティとのつながりをつくりあげていくという。



上3点 Main Museum, Los Angeles, California [撮影:Kio Griffith]

The Underground Museum

画家ノア・デービス(Noah Davis)と妻のカロン(Karon)が、居住するスタジオをUnderground Museumとして一般公開したのが2012年。「普段、美術館とは縁遠いコミュニティにミュージアム・レベルのアートを持ち込んで直接紹介すること」が目的だった。最初はコレクターや美術館関係者から受け付けてもらえなかった企画も、今ではMOCAと提携でプログラムを進めることができるようになった。しかし、不幸なことにノアは2015年に32歳の若さで早逝。以後、デービス家とその身内で管理とキュレーションを続けている。

上5点 Underground Museum, Los Angeles, California
(Installation view of Non-fiction, at The Underground Museum)
[撮影:Kio Griffith]

Commonwealth & Council

現代美術館ハマーミュージアム(Hammer Museum)で隔年開催されている芸術祭「Made In L.A.」。そこで選抜されるアーティストを数多く育ててきた奇才ギャラリスト、ヨン・チャン(Young Chung)氏は2010年にコリアタウンにある自宅のスタジオ・アパートで現代アートの展示とレジデンシーを始めた。ネーミングは所在地で交差する道路名にちなんで「Commonwealth & Council」。盛大なレセプションによる近所からの苦情で立ち退きになり現在の場所に移転したが、今ではロサンゼルスのアーティスト・ラン・スペースの代表的な成功例となった。今年は香港のアートバーゼルにも出展する予定だ。

Commonwealth and Council , Los Angeles, California
(Installation view of Pasado Mañana, installation by Beatriz Cortez and Rafa Esparza, at Commonwealth and Council)
[撮影:Kio Griffith]



Installation by Ruthless, 2018 Guadalupe Rosales in collaboration with Eddie Ruvalcaba

Visitor Welcome Center

コリアタウン内の、焼肉店がある雑居ビルに移ったCommonwealth & Council。その同じ階でアーティスト・ラン・スペースを3年前にオープンしたのがVisitor Welcome Centerだ。主宰するDavid Bell氏のアパートの一室から始まったのだが、展示アーティストが壁を破壊するというアクションによって広げられ、その壁そのものが展示スペースのテーマとなっている。

上2点 Visitor Welcome Center, Los Angeles, California
(Installation view, Alan Nakagawa, at Visitor Welcome Center)
[撮影:Kio Griffith]

上 David Bell, owner of Visitor Welcome Center
[撮影:Kio Griffith]

アートスペースと地域住民の軋轢

ジェントリフィケーションに対するコメントを求め、最前線地域であるロサンゼルス川東岸のボイル・ハイツ(Boyle Heights)付近に向かったが、このエリアでは極めて激しい攻防が繰り広げられている。ギャラリーやオルタナティブスペースは、高価格商品の提供元として、数世代そこで生活してきたラテン・コミュニティーのリーダー達からは「再開発企業の片棒を担ぐ存在」と見なされ、対立に立ち往生しているのが現状だ。

ボイル・ハイツはコンプトン(Compton)、ワッツ(Watts)と並び、イーストL.A.で1960年代から70年代にかけて、カリフォルニア州の農園季節労働者たちが組合結成の激しい運動を繰り広げた由緒ある場所でもある。労働者のために闘い、労働条件の向上を勝ちとってきた運動の先人には、セザール・チャベス(Cesar Chavez)氏やドロレス・ウエルタ(Dolores Huerta)氏がおり、労働コミュニティー団結の絆になった。チャベス氏の合い言葉、「シ、セプエデ(Si, se puede)」というUFW(全米農業労働者組合)のモットーは、その後バラク・オバマの合い言葉「Yes, We Can」のインスピレーションとなった。

現代アートの畑から浮上した数々のアーティスト・ラン・スペースの活動も、その発端は「コミュニティーとアートを共存させ、企業に立ち向かうポジショニングを維持すること」だ。だが、労働者の目からは、地価が上がった地域からまた他の場所に移住していくアーティスト達の後ろを、影のように付いてくる地上げ企業しか見えない。それは仕方のないことだ。彼らは「悪い兆しは3通りにやってくる」という。それは「ギャラリー、小洒落たカフェ、そしてクラフトビール店」だそうだ。

昨年(2017年)2月にとうとう火が付いてしまったアンチ・ジェントリフィケーションの激戦。犠牲となった唯一のスペースは、商業ギャラリーではなく、NPOが運営するアーティスト・ラン「PSSST」だった。施設の目前で連続するデモやエスカレートする暴力などの危険を考慮して、創始者達が閉館することを決意した。PSSSTの主な活動は地域コミュニティ内で活動するLGBTQアーティストのサポートであった。しかし、そのLGBTQのアーティスト達がデモのターゲットになるなど、事態が悪化してしまったのだという。


上 Boyle Heights, Los Angeles, California

もともと砂漠だったロサンゼルスに水を引いてきたのは「水の帝王」と呼ばれたウィリアム・マルホランド(William Mulholland)だ。故郷アイルランドからアメリカに渡って独学で地質学と工学を学び、1886年にロサンゼルスの水力会社の技術部長となった。375kmの水路工事に5,000人の労働者と6年の年月を費やして、1913年に完成したのがロサンゼルス水道。水の無い街は、ロサンゼルス川が街の東西を縦に切り分けていて、それと並行して大陸横断鉄道アムトラックの線路が組まれている。

この水路を渡す何本もの橋が都市の西と東をつなげている。L.A.のもう一つの象徴であるフリーウェイのネットワークも、この街の広大な面積を留め繋いでいる。フリーウェイからイーストL.A.に入る最初の出口はミッション・ストリート。この通りに多くのギャラリーが移転し、マンハッタンから移ってくるギャラリーも少なくはない。

356 Mission

ニューヨークのギャラリスト、ギャビン・ブラウン(Gavin Brown)は、画家ローラ・オーウェンズ(Laura Owens)と提携して、彼女のスタジオ「356 Mission」を展示やイベントのスペースとして運営している。ここでも、アンチ・ジェントリフィケーションのデモが繰り広げられてはいるが、何らかの方法で争いを抑制しているようだ。例えばデモに来ている関係者をイベントや展示に招待するなど。

上3点 356 Mission, Los Angeles, California
[撮影:Kio Griffith]

ロドニー・キング事件に対する白人警察官への無罪評決をきっかけとして起こったロサンゼルス暴動からはあっという間に時が過ぎた。それは未だに解決策がないロサンゼルスにおける人種間の緊張が炸裂したものだった。あれから25年、2017年にはHammer Museum、LACMA、Gettyが中心となり、初めてのラテン・アメリカの芸術祭が「Pacific Standard Time: LA/LA」で開催された。美術館側も積極的にラテン・アメリカ美術史のレクチャーやワークショップなどを催し、他地域の小学生から高校生を招待して、一般知識を広めている。これが、特別に企画された芸術祭の会期を過ぎても続くことを切に願う。最後に亡きロドニー・キングの言葉を拝借したい。"People, I just want to say … can we all get along? Can we get along?"

L.A.関連映画

Cesar Chavez (2014)

Dolores (2017)

Let It Fall: Los Angeles 1982-1992 (2017)

To Live and Die in L.A. (1985)

Mulholland Drive (2001)

Colors (1988)

Repo Man (1984)

L.A. Confidential (1997)

Double Indemnity (1944)

Chinatown (1974)

The Decline of Western Civilization (1981)

Rebel Without a Cause (1955)

Blade Runner (1982)

The Long Goodbye (1973)


The Main Museum

114 W 4th St., Los Angeles, California 90013

Underground Museum

3508 W. Washington Blvd., Los Angeles, California 90018

Commonwealth & Council

3006 W 7th St., Suite 220, Los Angeles California 90005

Visitor Welcome Center

3006 W 7th St., Suite 200A, Los Angeles, California 90005

PSSST

閉鎖

356 Mission

356 S. Mission Rd., Los Angeles, California 90033

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