2018年10月15日号
次回11月1日更新予定

フォーカス

【香港】産業遺産はAssembleによってどう生まれ変わるか──Centre for Heritage Arts and Textile(CHAT)の挑戦

マシュー・レオン(Assemble、建築家)/高橋瑞木(Centre for Heritage Arts and Textile共同ディレクター)/金田泰裕(構造家)

2018年08月01日号

20世紀なかばに世界で隆盛を誇った香港の繊維産業の遺構が、いまアートセンターに生まれ変わろうとしている。Centre for Heritage Arts and Textile(CHAT)は、かつて香港で最も大きな紡績会社であった南豐紡織有限公司(現在はディベロッパーの南豊集団所有)の元工場をリノベーションして来春オープンの予定だ。センターの共同ディレクターを勤めるのは、水戸芸術館現代美術センターなどで数々の企画展を手がけたキュレーター高橋瑞木氏。2年前に香港に拠点を移し、オープンに向けて準備を整えている。常設展示室の展示デザインは2015年のターナー賞★1を受賞したAssemble★2。建築だけでなくさまざまな職能を持ったクリエイティブ集団で、地域のボランティアたちと協働するDIY的なリノベーションや都市の再生プロジェクトで注目されている。グランド・オープンにさきがけて、7月に開催されるワークショップの準備に集ったAssembleのマシュー・レオン氏と高橋氏を、香港を拠点にする構造家の金田泰裕氏にインタビューしていただいた。(構成+和訳:yasuhirokaneda STRUCTURE [金田泰裕、菊池美咲])


プレ・オープニング・プログラムの開会式
田口行弘が近隣住民と共同で制作したドラゴンパフォーマンス
[Photo courtesy: Centre for Heritage, Arts and Textile, Hong Kong]

香港の繊維産業史と現代アート・デザインの交差点

金田泰裕(以下、金田)──まず最初に高橋瑞木さんから、Centre for Heritage Arts and Textile(以下、CHAT)の概要と設立の背景について教えていただけますか?

高橋瑞木(以下、高橋)──CHATは南豐紡織有限公司の元紡績工場をリノベーションした建物内に来年3月にオープンするアートセンターです。20世紀に香港の経済発展の基礎を築いたテキスタイル産業の歴史を伝える常設展示と、地政学、歴史、文化、技術、芸術的視点からテキスタイルと社会との関係を考察する特別展示室、テキスタイル産業に関わっていた技術者たちがものづくりをサポートするラボなどがあります。

この紡績工場は荃灣(チュンワン)という工業地帯に1961年に建設されたもので、香港の紡績産業の中心を形成していた建物のひとつです。中国の改革開放以降、香港の紡績産業は中国大陸や東南アジアに移ってしまい、2016年には最後の紡績工場も閉じてしまいました。テキスタイルの博物館、美術館というと、通常王族や貴族のために作られた歴史的価値のある織物などの展示が連想されるかもしれませんが、香港で主に製造されていたのはジーンズやタオル、シーツといった日用品のためのコットンです。コットンはもっとも古いグローバルなコモデティと言われ、植民地政策や奴隷制度、貿易経済から、現代の環境や労働問題とも深い関わりがあります。こうしたテキスタイル産業の背景にあるさまざまなテーマを展覧会やラーニングプログラムを通して取り上げていきたいと考えています。

常設展の展示デザインに、私たちはAssembleを招聘しています。彼らは、2015年に建築家グループとして初めてターナー賞を受賞したことで、アート界でも注目されました。リヴァプールのグランビーストリートのプロジェクトに代表されるように、彼らは地域社会の住民との対話やワークショップを通して、その土地にあるクラフトや地域住民の技能をとりいれ、空間デザインからその場所で展開されるプログラムまで手がけます。CHATは本格的なオープンの前から地域の人々と一緒にアートセンターを作っていく施設にしたかったので、常設展示のコンセプトづくりから関わってくれるデザイナーと組みたいと思っていました。常設展示は展示物の陳列だけでなく、ワークショップ的な要素が共存する場所になります。またAssembleのメンバーであるマシュー・レオンは彼自身はイギリス生まれですが、家族のルーツが香港にあるので、彼が今回のプロジェクトを通してどうやって香港の近代史や土地、建物を読解するのかにも興味がありました。


CHATが入居するリノベーションした元紡績工場The Millsの外観

Assembleはどのように生まれたか

金田──では、Assembleのこのプロジェクトの担当者マシュー・レオンさんにお伺いします。Assembleは建築だけでなく、さまざまな技能と知識、経験を持ったメンバーで構成されています。そして、多種多様なプロジェクトが同時進行していると思うのですが、どのように担当を決めているのですか?

マシュー・レオン(以下、レオン)──いま、メンバーは16人います。最初のスタート時は20人でした。大学に戻ったり他の仕事に変わる人もいて、一時期は6〜7人まで減りましたが、卒業してから戻ってくるメンバーもいて、コアメンバーはあまり変わっていません。

ただ、メンバーの構成自体は年々変化しているため、どうやって担当を決めているかは、実は非常に複雑です。活動をスタートさせた頃、ヒエラルキーのないフラットな組織でいるよう決めました。その後、仕事の内容やプロジェクトの関係性が変化していったため、以前はフリーランスで働いていたメンバーも、現在は社員として働いています。ボスが存在しない関係を継続させるために、2名のスタッフが2ヶ月ごとに交代する人事部を設置しました。例えば、プロジェクトAに興味のあるメンバーがプロジェクトBで忙しくても、そのメンバーがプロジェクトAを担当できるようにマネージメントしています。その結果、メンバー全員が興味のあるプロジェクトに取り組めています。毎週木曜日にメンバー全員で全プロジェクトについて話し合う以外、堅苦しい社内ルールはありません。そこで、誰が何のプロジェクトをやるかを決め、小さなプロジェクトの場合でも最低二人の担当者がつくようにしています。



マシュー・レオン氏

金田──Assembleの現在の柔軟な制作スタイルは、自然になんとなく生まれたのでしょうか。それとも、戦略的に考えられたスタイルなのでしょうか。

マシュー・レオン(以下、レオン)──まったく戦略ではありませんでしたね。最初のプロジェクトは経験を積むというよりは楽しそうだからしようと始めましたね。二つ目のプロジェクトも同様に楽しいことをしたいという一心で、そうしているうちに、ターナー賞を受賞し、創作活動を続けてみようかと、そんな調子でやってきたんです。私たちのスタイルは初めから決まっていたのではなく、自然にこんなふうになったんです。

3/4のメンバーは建築を学んでいますが、ほかの1/4のメンバーは建築ではなく哲学や文学を修めています。最初のプロジェクトでは色々なスキルを持つもの同士が混ざりながら、仕事をしました。最近では、オフィスマネージャーとしてそれぞれ経理とファッションを学んだメンバーが加わり、また違うカラーが加わりました。

私たちは、さまざまな異なるプロジェクトに携わることにおいて、戦略的である必要はないと思っています。ワーキンググループ内で各メンバーが持っているそれぞれの関心がプロジェクトに反映され、プロジェクト自体も変化していくからです。Assembleは初めからプロジェクトからプロジェクトへジャンプしてくようなやり方をしています。プロジェクトは戦略的に運ぼうとしても、なかなか思った方向に進まなかったりしますよね。だから臨機応変で柔軟に進めていくようにしているんです。
Assembleのスタジオのなかにはワークショップスペースがあり、そこをシェアしているさまざまな人たちとプロダクトを作ったりもしているんですよ。



Assemble

私たちがスタートしたときから少し年齢を重ねたということも意識しています。今後、メンバー一人ひとりのニーズや意見も変化していくことでしょう。例えば、すでにAssemble Design、Granby Workshop、Sugarhouse Studios、Assemble Constructionなどを立ち上げ、これからAssemble Pressも始めようかと考えているところです。このように興味あることに素直に向き合い、やらなきゃいけないからではなく、携わりたいと思うプロジェクトに参加し、活動をしていくというシンプルなスタンスなのです。

金田──結成された2010年は、まだ2008年のリーマン・ショックの余波が残っていた時期ですね。日本では、それに加えて2011年に東日本大震災もあり、建設業における労働力不足、材料価格高騰などにより、新築プロジェクト数が著しく減少するなど、建築家に大きな影響があった時期です。若い建築家たちは、それまであまり主流ではなかった改修や空き家再生プロジェクトに設計対象を移行せざるを得なくなりました。日本における、その傾向はAssembleとどこか似ているような気がするのですが、Assembleはそのような経済的背景のもとで生まれたと思いますか。また、同時期に同様のスタンスでデザインをしていった人たちはイギリスにいましたか。

レオン──その頃の若手建築家の動向について調べたわけではないので、不景気のせいかはわかりませんが、イギリスでは面白い活動をしている同世代はいましたね。周りにいる多くの建築関係者たちは、教育は受けたものの、プロジェクト数が減り、実務経験は少ないという状態がほとんどでした。もし、卒業後、望んでいるような職につけていたらAssembleというグループは存在しなかったと思いますよ。「素晴らしいプロジェクトは経済危機や不況のなから生まれる」と大学時代の先生は言っていました。そして、「そんな厳しい状況のなかでも自らの信じる道を選び、これまでとは異なるストーリーを選ぶことができる」と。



Assemble Granby Terrace 2013-17


Assemble Goldsmiths Centre for Contemporary Art 2018 ★3

境界を超えるコラボレーション

金田──ご両親は香港の出身だと聞いています。今回の依頼を受けたとき、どう思われましたか。

レオン──私自身はイギリスで生まれています。香港には親戚に会いに来たりしていましたが、言ってしまえば、私はアウトサイダー(外国人)なので、香港についてはあまり詳しくありません。今回のプロジェクトは、観光客としてではなく、プロフェッショナルな文化的視点から香港を知ることができる機会になると思いました。

金田──今回のプロジェクトについて、どのようなリサーチをされていますか。

レオン──今回はさまざまな要素があると思っています。
ひとつは、香港の繊維産業の歴史と文化についてです。アントニー(Anthony Engi Meacock。このプロジェクトに関わるもう一人のAssembleのメンバー)と私は中国語が読めないため、文献などを調べることが容易ではありませんでしたが、CHATから提供してもらった資料を頼りにリサーチを進めました。

もうひとつは、繊維やテキスタイルそのものについてです。進行中のほかのプロジェクトにファブリック関係のものがあったため、オフィスで情報を共有し、香港のみならず、製造工程やさまざまな国での歴史的・文化的背景などをインプットすることができました。

また、昨年12月の事前調査も香港のさまざまな異なる面を知ることができ、非常に有意義でした。通常、地域密着型プロジェクトを得意とする私たちですが、今回のプロジェクトに関しては地球半周分の距離が一番の壁になっています。そのため、今年の7月に行なうワークショップで地域の方々と密に接することができると思います。来年のグランド・オープンの前に、このプレ・オープニング・イベントをすることによって、リスクを軽減させ、どんなアイディアが使えるか実験できます。また、7月のプレ・オープニング・プログラムの参加作家である田口行弘さんなども、また違う感覚や物の捉え方があるため、三週間のワークショップを終えた後に、再度テキスタイルの財団とはどういうものか問い直してみるのも面白そうですね。そういう意味では、私たちにとっても、香港にとっても他に類を見ない新しい試みになるのではないでしょうか。


建物をリサーチするマシュー・レオン氏とアントニー・エンギ・ミーコック氏(2017年12月)

歴史ある製造の場から生まれる現代のクリエイティビティ

金田──具体的にはどんなところがユニークな点になるでしょうか。

レオン──まさにプロダクトの製造が行なわれていた、建物自体が産業遺産であるような場所で行なわれるということですね。いまや香港は金融と消費の都市であって、MADE IN HONG KONGなどというような製造業のイメージはあまりありませんからね。ですので、日常的に購入しているような製品の製造工程を体験することのできるワークショップは、いい機会になると思います。テキスタイルが製造されていたその場所で、製品というものが文化遺産や歴史と無縁ではないことがわかるでしょう。

金田──イギリスで取り組まれている改修プロジェクトの対象は、19〜20世紀前半の建物だと思いますが、今回の建物は1961年に建てられた建築物で、比較的新しいですよね。そのことについては、どのように考えていらっしゃいますか。

レオン──単純に建物の築年数ということではなく、興味深いところは60年代から今に至る香港での繊維産業の変化が壮絶だったことです。調べるまで知らなかったことですが、20世紀半ばにイギリスのランカシャーの繊維産業の業績が悪化し始め、1960年ごろにランカシャー協定がイギリスと香港間で結ばれ、香港でのコットンの製造を抑えるようになったそうです。香港の繊維産業はその後急激に減速し、今ではオートクチュールなどを除けばごくわずかな生産量になりました。CHATが入居する繊維工場のような建物はほとんど現存していないので、築年数には関係なく、ここが歴史的建造物であることに変わりありません。

私たちはこのような歴史的建造物の現役当時の使用方法が、改修後にも受け継がれるべきだと思っています。工場の機能をそのまま再現するということではありませんが、その特徴を展示に残したいということを考えていました。通常の美術館のように展示物に触れてはいけないというような緊張感のあるスペースでは面白くないと思い、建物が持つ歴史的な特徴を展示室のデザインにそのまま引き継いでいます。



工場時代に使用されていた防火バケツを照明器具としてリユース(南豊集団のインハウスデザイナーによる設計)
(2018年6月11日撮影)

人々を無意識に巻き込む力

金田──CHATが香港の他のアートギャラリーと違う点はどんなところでしょうか。

高橋──CHATは産業遺産保護プロジェクトの一貫として立ち上がりました。それは香港でも珍しい試みだと思います。実際にかつて稼働していた繊維工場が拠点になるため、繊維工業の歴史、製造機械、建築、デザインといったさまざまな分野について皆さんに知っていただけると考えています。CHATのある荃湾はかつての工業地帯の中心地で香港の中心からは離れており、多くの工場労働者が住んでいたエリアですが、近年は若い世代も住み着いてきています。しかし、ギャラリーや美術館はまだひとつもありません。

そういったエリアでどうやって観客を育成するのかが大きな課題です。でも、これは視点を変えるとチャンスだと思うんです。CHATでは既存の価値観を鵜呑みにするのではなく、展示やワークショップで、地域住民とCHATのスタッフがともにデザインやアート、そしてその価値を再考察するような場所になってほしいと思っています。



高橋瑞木氏

金田──こちらの工場は創設者のお孫さんが継がれているそうですね。そのように若い世代が、その遺産を文化的な拠点として再開発しようとしている事は、これからの香港にとって重要視されるべきことだと感じました。

高橋──まさにそうですね。ニューヨークやロンドンではこのように老朽化の進んだ元工場を、新しい形に生まれ変わらせる実例はあるものの、香港ではあまりありません。元工場のような物件は多くありますが、香港では建物の用途変更をするときに政府に支払う費用が高額なので、建物の所有者は用途変更するよりも壊し、新しい建物を建てる場合がほとんどです。
しかし、CHATのプロジェクトの設立者は老朽化した工場の建築的要素や歴史的な遺物を最大限に生かして、人々が現在の香港の礎石となったテキスタイル産業の歴史に対する記憶を喚起するような公共的な場所として、地域に開いていきたいという願いをもっています。なにより面白いことは、香港トップのデベロッパーであるお孫さんが経済的利潤より文化的歴史的価値を重視したことですよね。



CHATの常設展の一部、香港の紡績工場で使用されていた日本製のマシン
[Photo courtesy: Centre for Heritage, Arts and Textile, Hong Kong]


金田──Assembleは、地元の人を巻き込みワークショップを行なったり、住民から募ったボランティアと一緒にプロジェクトを進めていく方法が特徴です。それは今回はどんなふうに生かされるのでしょうか。

レオン──私たちはCHATを来場者が受け身で展示を鑑賞するのではなく、積極的に活動できる場にしたら面白いと考えました。アートが好きな人だけが決まった目的のためにわざわざ出かけていくような場所というより、ちょっと興味のあることに誘われて誰もが訪れることができるような場所にしたいのです。そう考え、ワークショップが行なわれる常設展示のアイディアを練りました。例えば、ショップに買い物に来た人が知らないうちに、ワークショップに紛れ込んだりできるようなことです。

金田──具体的にはどんな空間デザインになるのでしょうか。

レオン──建物の中心にワークショップスペースを置きたいと考えています。そこには実際のワークショップで参加者と一緒に制作したテーブルを置くつもりです。常設展示はだれでも参加できるようなカジュアルな空間にしたいのです。完成を目指さず、ずっと変化し続けていく空間に対応していけるような什器も入れていく予定です。


金田──今回のワークショップにはどんな人に参加してほしいとお考えですか。

高橋──20〜40代の人や若い家族ですね。この世代は何かを作り上げたり、学んだりすることに興味を持っていて、彼らがワークショップで学んだことをその子供たちに伝えられるからです。私は来館者に素材に触れ、素材自体を楽しみ、そこから文化や歴史を学んでもらいたいと思っています。香港の学校では滅多にできない経験になると思います。

金田──かつての工員の方々がワークショップに参加する予定はありますか。

高橋──はい、彼らにもアート・プロジェクトに参加してもらいたいので、オーラルヒストリー蒐集の一貫としてインタビューを重ねているところです

金田──レオンさんは、各プロジェクトに特定の参加者を想定していますか。

レオン──それは決めていませんね。Assembleを始めた頃、デザインを勉強している学生に参加してもらったらと話していましたが、でも、もっといろんな人に参加してほしいんです。だって、そういう人はすでにデザインの考え方やどのようにアートができるかなどについて知っていますよね。

しかし、高橋さんが話されていたことは興味深いと思います。つまり歴史と記憶を持った建物が、元工員の現役時代の人生と退職後の新しい人生をつなげるんですから。それは素敵なことですね。

金田──レオンさんに、マテリアルについてお伺いしたいです。Assembleの特徴として、既存のマテリアルや技術を使って、それらを既存の方法や組合せではないやり方で、新しいものや状況を作り出すということがあげられると思います。今回のプロジェクトではテキスタイルが主役になりますよね。



金田泰裕氏

レオン──私たちは標準規格というものに興味があります。今回、私たちはテキスタイルを製造する機械の原料であるアルミニウムに注目しました。素材の持つ美しさもそうですが、将来的なコレクションの増加を見越して、形を変え、加工しやすいことを考えて選びました。これがCHATのインフラになると考えているんです。今夏のワークショップの主役となるマテリアルは、ワークショップで作る織布、伝統的な布生地、現代のテキスタイルです。これらは手を加えることのできない産業遺産のオブジェを支える存在になるだろうと考えています。将来、コレクションが変化していく可能性を考慮して、このアプローチをとりました。

金田──Assembleでは今回のような、イギリス以外のプロジェクトもたくさん進行していると思います。イギリスでのように地域に密着してプロジェクトを進める方法は、ほかでは容易ではないと思いますが、いかがでしょうか。

レオン──それについてはやり方を模索しているところです。イギリスではリヴァプールやグラスゴーでもプロジェクトがありましたが、ロンドンが一番多いです。距離の面から言えば、国内ではその地域と住民の方々と深く付き合うことができます。実は、メンバーの一人がグランビーでのプロジェクト★4の後、そこに移住しました。グラスゴーのプレーパークのプロジェクト★5でも長い時間をかけ地域のことを知り、現地の協働者からも学びました。他国でのプロジェクトはイギリスでのプロジェクトに比べて圧倒的に難易度が高いですが、私たちのメッセージをどのように確実に届けられるか、現在、方法を考えています。

しかし、今回のプロジェクトは少し状況が違います。過去のプロジェクトでは私たちがその地域を訪問し、特にコミュニティと呼べるものがない場所で、仕事をスタートしなければなりませんでした。しかし、このCHATのプロジェクトに関しては、すでにその地域に存在する組織が私たちと一般の人々を結ぶ役目をしてくれます。私たちは方向性を提示しますが、この場にずっといる必要性はないと思っています。これから、地元の人たちと文化を含めた議論をしながら進めていくわけですが、どのように展開していくのか、とても楽しみです。

アウトサイダーの目線から

金田──高橋さんが香港でのAssembleに最も期待していることは何でしょうか。

高橋──レオンさんと同じように、私も香港ではアウトサイダーですが、香港の繊維産業の歴史・文化・携わる人間のことについて、香港人とは違う視点から学べるチャンスだと考えています。Assembleとの今夏のプレ・オープニング・イベントを経て、そこからまたチューンナップしながら、グランド・オープニングを迎えたいと思っています。Assembleとは今回だけで終わるのではなく、長い付き合いをしていきたいですね。アートセンターは地域や風土に対応し、進化し続けていくオーガニックなものであるべきだと思っていますから。

金田──高橋さんは日本にいらっしゃったときに、さまざまなアート・プロジェクトを企画運営されていたと思います。香港やこのプロジェクトでの難しさはどういうところですか?

高橋──展示品の蒐集ですね。香港は土地が限られているため、不要になった古い部品やテキスタイルのサンプル、ドキュメントなどは保管されず、捨てられてしまいます。工場の責任者やテキスタイル組合に問い合わせるのですが、工場が中国や東南アジアに移転したため、香港には存在しないというようなシチュエーションも多々ありました。限られた数の展示物で香港のテキスタイル産業について馴染みのない人々の興味を引く展示がどうやって可能か、四苦八苦しています。

金田──荃灣をいつかアートにあふれた地域にしたいとお考えですか。

高橋──香港ではアート作品は投資目的に購入される場合が多く、大抵のものごとが商業ベースで動いていく、商業と経済の都市です。こうした都市環境のなかで、CHATが想像力を刺激し、多様な価値観を促進する場となることを願っています。アーティスト、デザイナー、そしてこの都市の人々がともにアートやデザインにアプローチするプラットフォームを作りたいのです。




ワークショップ「CHAT GO! Let’s Build a Textile Village」の様子(2018年7月18日)


(2018年6月11日、CHATにて)


★1──テート美術館が主宰する権威ある現代美術の賞を、当時全員がまだ20代の若い建築家コレクティブが受賞したことで大きな注目を浴びた。アートワード「ターナー賞」の項を参照。
★2──2010年結成。アート、建築、デザインの多領域な分野で活動する建築家コレクティブ。建築物およびそれにからむ社会的、経済的、組織的モデルを提案し、複雑な都市環境、住居、ワークスペース、文化施設や公共空間に関するさまざまなデザインプロジェクトに人々を巻き込んでいる。最初のプロジェクトは廃屋になっていたガソリンスタンドを200名のボランティアスタッフと一緒に映画館に改修した《The Cineroleum》(2018)。ターナー賞を受賞したリヴァプールの《Granby Four Streets》(2013-2017)は彼らの創意工夫に富んだリユース志向の代表作で、そこでは廃墟と化したテラスハウス10軒のリノベーションをベースに、さまざまなプロジェクトが発展した。たとえば、廃材を利用したハンドメイドの家具や陶器製品の製造販売会社(Granby Workshop)を設立したり、建築の骨組みだけが残された2軒のテラスハウスからコミュニティ・アート・スペースが生まれた。第16回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展(2018)に出品。Granby Workshop https://granbyworkshop.co.uk/the-factory-floor/
★3──ゴールドスミス現代美術センター(Goldsmiths CCA)はAssembleの最新プロジェクトのひとつ。ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジのキャンパス内に2018年9月8日オープンする予定。彼らにとって初めての大規模な公共建築の設計になる。http://goldsmithscca.art/exhibitions/
★4──《Granby Four Streets》 (2013-17) https://assemblestudio.co.uk/projects/granby-four-streets http://www.granby4streetsclt.co.uk/
★5──《Baltic Street Adventure Playground》 (2014-) https://assemblestudio.co.uk/projects/baltic-street-adventure-playground 6〜12歳の都会の子供たちのための自主運営の児童公園。自分たちで遊び道具を作ったり、料理をしたり、大人3名のサポートのもと、自由に遊ぶことができる。


CHAT GO! Let’s Build a Textile Village

会期:2018年7月29日(日)、8月1日(水)〜8月5日(日)、8月8日(水)〜8月12日(日)、8月15日(水)〜8月19日(日) 11:00〜19:00
会場:Centre for Heritage Arts and Textile(CHAT), The Mills
45 Pak Tin Par Street, Tsuen Wan, N.T., Hong Kong

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