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建築ビエンナーレ──新しい出発

太田佳代子

2010年02月01日号

 ビエンナーレ、トリエンナーレと名のつく国際展は今、世界中に軽く100はあるらしい。そんななかにあって、建築版ビエンナーレは未だに地味な存在だ。2009年12月から2カ月にわたって開催された「深圳・香港 都市/建築ビエンナーレ」を通して、建築国際展の現在とこれからの可能性について考えてみたい。


メイン会場である市民中心広場の一角に横たわる、スタジオ・ペイチューの「アーバン・オアシス」。アラップの構造設計をベースに1カ月をかけて人力製作された。
Photo: Approach Architecture

建築ビエンナーレとアートビエンナーレ

 2年か3年に一度、世界から選りすぐりの作家を集めるこの文化イベント形式は、ここ20年くらいだろうか、世界中に一気に伝播した。文化をテコに国際的認知度を上げ、「世界地図に載る」ことで経済の活性化を図る──都市行政にとってビエンナーレ、トリエンナーレは経営効率の良いビジネスモデルであるらしい。
 ビエンナーレの総本山は115年の歴史をもつヴェニスだが、1980年からはアートビエンナーレの開かれない狭間の年に、建築版ビエンナーレを開くようになった。ただしこちらはアート版ほどの波及力はなく、ヴェニス以外でパッと思い浮かべられるのは未だにオランダのロッテルダム、ロンドン、深圳・香港の三つくらい。やはり建築ビエンナーレにはアートビエンナーレの華やかさがない、というかその存在意義さえまだ曖昧模糊としているのが実情だと思う。
 そもそも「建築の展覧会」という表現媒体にまだまだ開拓の余地があると、みんななんとなく思っているんじゃないだろうか。建築そのものは展示できないので、それを表象するもの(媒体)を通して理解し、コミュニケートする──というのが建築展覧会の相場ではあるが、実のところ、アンビルトやデコン建築のように、ドローイングそのものに力強い表現力があり、それ自体が作品として成立する、ということでもない限り、建築をテーマに力強いメッセージを発するにはもの凄い力量が要る。建築の醍醐味を爽やかに伝えてくれた展覧会が、一体これまでいくつあっただろう?
 と、そんな気持ちをふだん抱いていた筆者ではあるが、年末からこの1月末にかけて開催された「深圳・香港 都市/建築ビエンナーレ」に参加してみて、あるポジティブな確信を得た。そして建築ビエンナーレという展覧会形式がこれまで中途半端だった分、これから「化ける」可能性もあるのかもと思うようになった。

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