2017年11月15日号
次回12月1日更新予定

フォーカス

東京に出現した手作りのアートセンター──「3331 Arts Chiyoda」のスタート

福住廉(美術評論)2010年07月15日号

 twitterでつぶやく

 先ごろ、東京の中心に新たなアートセンターが誕生した。その名も、「3331 Arts Chiyoda(アーツ千代田3331)」。場所は秋葉原や上野御徒町、神田明神などに囲まれた、旧練成中学校。都心の空洞化に伴う人口減のため、2005年に廃校になった公立中学校を丸ごとリノベーションしたアートセンターだ。延べ床面積約7200平行メートルを超える館内には、ホワイトキューブのギャラリースペースをはじめ、容量の大きな体育館を活用した3331ホール、ラウンジや会議室、カフェなどがそろい、さらに教室にはコマーシャル・ギャラリーやデザイン事務所などが入居、そのうえ作品制作のためのスタジオまで完備している。この3月にプレオープン、6月にグランドオープンを迎え、すでに多方面から注目を集めているが、ここではこの生まれたばかりのアートセンターの途中経過をレポートしたい。


3331 Arts Chiyoda外観

廃校のリノベーション

 廃校をリノベーションしたアートセンターそのものは、決して珍しくはない。都市を舞台にした美術展の先駆的存在として知られる「ミュージアム・シティ・福岡」(1990~2000)は、とくに後期になると、福岡市内の旧御供所(ごくしょ)小学校を展示会場および事務局として有効に活用していたし、毎年「朝顔市」で賑わう入谷の旧坂本小学校は展覧会場として教室が貸し出されているほか、現在大規模な改装工事のため休館中の東京都美術館のリニューアル準備室が置かれている。ただし、こうした先行事例は、いずれもアートセンターとして持続的に活動するというより、義務教育に代わるソフトとしてのアートが一時的かつ部分的にハードとしての校舎に充填されるというのが実情のようだ。前者はその後ベンチャー企業のためのインキュベート施設としてしばらく使われていたが、今後は養護高校として生まれ変わるという。後者も今のところ貸し会場以上の機能は果たしていないようだ。学校としての役目を終えた施設をどのようにすれば文化的に活用できるのか。少子高齢化社会における地方自治体が目下のところ直面しているこの問題に、「アートセンター」はひとつの有効な回答を与えることが期待されている。


3331 Arts Chiyoda、内観

 こうした先行事例と比べると、「3331 Arts Chiyoda」には二つの画期的な特徴がある。ひとつは、それが実に多彩な活動を繰り広げていること。企画展としては、「見るまえに跳べ」展[2010.3.14〜4.11]、佐々木耕成展[2010.4.23〜5.23]、そして現在も開催中のグランドオープン展[2010.6.26〜7.25]と、3月のプレオープン以来すでに三つの展覧会を催しているほか、入居団体によるイベントや展覧会、さらにはダンス公演など、これまでに主催事業だけで30以上にものぼる。レンタルスペースで行なわれたイベントなども含めると、その数はおよそ100になる。さらには、9月からはスクール事業の「ARTS FIELD TOKYO」がはじまる予定で、高等教育機関では望めない、領域横断的で実践的な教育プログラムが実施されるという。オルタナティヴなアートセンターとしてはすでに大きな実績を残している、横浜のBankART1929と同じように、「3331 Arts Chiyoda」もまた、展覧会を中心としながらも、各種のイベントや公演、ワークショップなど多様なプログラムを次々と打ち出すことによって、同時代のアートの現場を作り出そうとしているのである。公立美術館をはるかに凌ぐ、その量と速度こそ、オルタナティヴなアートセンターならではの醍醐味である。
 もうひとつの特徴は、そのBankART1929とは異なる点として、「3331 Arts Chiyoda」が巨大なホワイトキューブを持っていること。従来の廃校をリノベーションしたアートセンターといえば、教室や図書室などに代表される、いわゆる「学校的な空間」をそのまま展示会場や事務所に転用したものが多い。誰もが通学した経験がある以上、それは幼少期の記憶を呼び起こしやすいという利点がある反面、作品を展示して鑑賞させる空間としては必ずしも好ましいとは言えない。鑑賞者の視線は黒板や机、教卓などの郷愁を誘うアイテムに次から次へと移ろうため、そこに設置された作品に集中することが難しいからだ。その記憶を喚起することを狙った作品であれば絶好の空間と言えるのかもしれないが、そうではない作品にとって学校は作品の存在すらかき消されてしまいかねない、非常にハードルの高い空間である。


展示スペース

 これに対して、「3331 Arts Chiyoda」が本格的なホワイトキューブを施工したことには大きな意味がある。外観は学校そのものであるし、内装のいたるところにはその面影が残されているが、1階の中央には床も天井も壁も白で統一されたホワイトキューブがある。照明を灯すと、その白さがよりいっそう際立つ。先ごろ催された「佐々木耕成展」では、色とりどりの抽象画を縦横無尽に展示することによって、真っ白い空間が色彩とかたちが入り乱れる抽象画を効果的に引き立てており、まさしくホワイトキューブならではの圧巻の展観だった。もちろん学校の建造物であるから天井はそれほど高くはない。とは言え、美術館を含めて東京近郊でこれだけの広さを誇るホワイトキューブを備えた施設はまずないのではないだろうか。近年の美術館は脱ホワイトキューブの傾向をますます強めているから、それだけいっそう「3331 Arts Chiyoda」のホワイトキューブは存在感を増している。剥き出しのコンクリートがそびえ立つBankART1929の展示空間が魅力的であることは間違いないが、「3331 Arts Chiyoda」はそれとは別の求心力を発揮しているのである。


佐々木耕成展ポスター


藤浩志の展示

▲ページの先頭へ

福住廉

1975年生まれ。美術評論家。著書=『今日の限界芸術』共著=『フィールド・キャラバン計画へ』『ビエンナーレの現在』『道の手帖 鶴見俊輔』。

2010年07月15日号の
フォーカス

  • 東京に出現した手作りのアートセンター──「3331 Arts Chiyoda」のスタート

文字の大きさ