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学芸員レポート

「成田亨 美術/特撮/怪獣」「ミッフィー展」「化け物展」「カンパニー:ニッポン・北のヒミツ」

工藤健志(青森県立美術館)2015年07月01日号

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 昨年の夏から富山県立近代美術館、福岡市美術館と巡回してきた「成田亨 美術/特撮/怪獣」展が、最終会場の青森県立美術館で、去る5月31日に終了した。青森会場の総入場者数は18,257人。50日間というやや短めの会期だったので、動員的には充分に健闘した数字と言えるだろう。これまで福岡市美術館の山口洋三氏と交互に記事を(しつこく)書いてきたけど、最後なんだからやはりきちんと締めておきたいと思う(笑)。

 今回の成田展は昨今ひっきりなしに美術館、博物館で開催されている漫画、アニメ、SF映画といった、俗に「サブカルチャー」と称される展覧会とは一線を画するもの、もっと言えば、集客のために無自覚に開催されるそれら展覧会に対する「抵抗」の試みと個人的には位置づけていた。先回りして書いておくが、筆者はサブカルチャーを見下している訳ではない。むしろ「人気があるからたくさんお客が入るだろう」というさもしい魂胆の透けてみえる館の姿勢を問題視したいのだ。パッケージングされた展覧会をただ受け入れ、一過性の集客イベントとして消費していく(ようにしか思えない)ことがはたして美術館の本来的役割に沿うものなのだろうか。こうした安易な取組みはその館のみならず、やがて「美術館」そのものの存在意義を喪失させることにつながるのではなかろうか。本来、大きな支持を集める漫画やアニメ、SF映画等のコンテンツは、文化史的な視点からも、さらには現代という時代性やそれを受容する人々の意識という観点からも、さまざまな考察が可能なものである。そもそも同じ「視覚文化」である以上、美術というジャンルとくっきり断絶しているはずもなく、例えば戦争記録画の様式は戦後の美術の歴史からは抜け落ちていくものの、少年漫画やイラスト、プラモデルの箱絵、特撮番組といったものに継承され、それらは現代日本を象徴する文化となっていった。とすれば、画家、彫刻家としての高い資質をもとに特撮美術の世界でも活躍を続けた成田亨の仕事は、こうした戦後美術の「ねじれ」を問い直す大きな力となるのではなかろうか。
 いうまでもなく成田の代表作は「ウルトラ」であるが、しかしそれのみで成田という芸術家を評価してはならない。今回、総出品作700点のうち200点を占める「ウルトラ」を一室に圧縮して展示したのも、それが成田の活動のほんの数年にしか過ぎないことを示すためである。むしろ、展示の力点は最後のセクション「1970−90年代の絵画・彫刻」においた。ホワイト・キューブの壁をすべてシルバーのガルバリウム鋼板で覆い、1950〜60年代の子どもたちに刷り込まれた近未来的な雰囲気を再現。そこに成田が1970年代以降に手がけた油彩画、イラスト、彫刻の数々を、モチーフを問わず等価に並べた。


「成田亨 美術/特撮/怪獣」展示風景(「ウルトラ」セクション)



同、展示風景(「1970−90年代の絵画・彫刻」セクション)

 「悲劇」や「苦悩」をテーマにした人物画、自然、生命への賛美に満ちた南国の風景画、自身がデザインした怪獣や宇宙人、マシーンが登場する情景を油彩やアクリルで描いた絵画、トリッキーなレリーフ、文明批判的な半抽象の立体作品からヒーロー、怪獣の彫刻まで。これら1点1点を「美術」と「そうでないもの」に分けることなどはたして可能だろうか。これら作品群こそが「純粋美術」と「特撮美術」の狭間で終生苦悩した成田芸術のリアリティなのだ。あわせて展示室には次のような成田の言葉も添えた。
 「真の芸術って何だろう? おそらく無償の行為だろう? 私は、そう思っています。映画をつくったり、デザイナーと云われる人種は、芸術家ではなくなりそうです。世の中の変化と要求に、作家の方がピントを合わせて、努力は、自己探求ではなく、環境の変化への目移りだ、と云う事になりそうです。パイオニヤは薄幸の中にこの世を去り、そのパイオニヤの開いた道を、手際よく頂いて、我が世の春を謳うのがデザイナーと云う人種かも知れません。(…中略…)私はデザイナーです。これは彫刻家のアルバイトと、割り切れるものでもありません。新しい形を創ろうとしている自分は何だろう?(…中略…)私は彫刻家なのだろうか? 或いはデザイナーなのだろうか? その両方だろうか? そのどちらでもないのだろうか?」
 これは1968年に開催した「成田亨 彫刻・映画美術個展」のパンフレットに寄せた「彫刻と怪獣との間」と題されたテキストからの抜粋である。このような意識を1960年後半という早い段階から持っていた成田の作品からは、当然、表現をめぐるさまざまな問題が浮かび上がってくる。本セクションに展示された多彩な油彩、イラスト、彫刻の数々を見ていると、戦後美術のねじれのなかでもがき苦しんだ成田の想いとともに、たとえ美術より一段低いものとみられようとも多くの人々を魅了する「怪獣」という名の新しい「形」を次々に生みだしたことに対する自負が読み取れる。さらには感情が横溢するかのようなタッチで描かれた波や雲の表現からは少年期に強い影響を受けた戦争記録画からの影響も認められよう。しかしメインモチーフが特撮番組の怪獣やマシーンになると、途端に芸術として認知されなくなるのはなぜだろう。それがまったく根拠のない価値判断であることを、本セクションに並んだ作品群ははっきりと示してくれたように思う。そもそも20世紀の美術において「戦争」と「機械」はきわめて重要なモチーフだったはずではないか。
 こうした成田の活動は芸術とサブカルチャーという二つの価値の「境界」を無効化した先駆として位置づけられる。成田自身は先駆者として、その狭間で終生葛藤を抱き続けたが、その苦悩もまた成田を芸術家たらしめる要因のひとつとなった。新制作展への最後の出品作となった《翼をもった人間の化石》(1971)は、科学、経済という近代の二つの翼を信奉した人類の末路を表現したものであるが、(まるでウルトラセブンで自身がデザインした「シャドー星人」のように)人体は凹凸が反転した凹型の痕跡として表現されている。特撮美術、商業美術の世界で長らく活動を続けるも、その境遇に身を置くことの葛藤が成田の社会批判意識を研ぎ澄まし、手放しで科学技術や経済至上主義を礼賛する現代文明への批評行為としての、こうした作品を生む原動力となっていった。ジャンルを横断しながらさまざまな作品を残した成田であるが、その思想や社会に対しての態度は一貫して「芸術家」であり、そうした成田が苦しみながら切り拓いた地平の上に、いまのアートシーンの一端があることを、本展をとおして感じ取ってもらえたとしたら、企画者のひとりとしてこれ以上の喜びはない。
 このように成田亨の仕事を戦後の日本美術史のなかに位置づけることで見えてくる問題は数多くある。本展が成田亨研究の端緒となることを願いつつ、近年のサブカルチャー系展覧会のあり方を問い直すきっかけとなれば幸いである。

成田亨 美術/特撮/怪獣

会期:2015年4月11日(土)〜5月31日(日)
会場:青森県立美術館
青森県青森市安田字近野185/Tel. 017-783-3000

 ということで、ここで裏話をひとつ。国による建築物の天井脱落防止措置基準の改正に伴い、当館も吊天井の補強工事を行なうため9月14日から来年3月中旬までの長期休館が決まったことから、成田展は当初の予定よりも1週間ほど会期を短縮、その後予定していた展覧会も前倒しで進めることとなった。成田展終了からわずか1週間で展示室のほとんどの作品を入れ替えるタイトなスケジュールとなったため、成田展は次に行なわれる「ミッフィー展」(個人的には「うさこちゃん展」のほうがしっくりくるんだけど)を見越しての造作を行なっていた。
 ミッフィー展は地元テレビ局の主催事業で美術館としては貸館扱いになるのだが、きっちりと調整を図って進めないとスケジュールが破綻してしまう。ゆえにミッフィー展の展示計画も成田展担当である筆者があわせて担当することとなり、成田展の展示を優先としながらも、仮設壁等の造作から照明、壁補修の手間に至るまでミッフィー展を想定しての展示を考えねばならなくなった。しかし、ここだけの話であるが、そのパズルのような作業はとても楽しく(笑)、いかに最小の手間で空間の印象を大きく変えていくかの、個人的な良い訓練の機会になったようにも思う。成田展のあとでミッフィー展を見た人が既視感を抱かなければ大成功なのだが、はたしてうまくいったかどうか。


「ミッフィー展」展示風景

 ともあれ、展示計画を立てるためには当然展覧会の内容も理解しなければならず、まず松屋銀座で立ち上がったミッフィー展を視察。展示ケースがJパネルという杉材でつくられており、その質感がなかなか面白かったこと、ブルーナカラーと称されるオレンジ、ブルー、イエロー、グリーン、グレー、茶の6色(絵本等でもこの6色にニンジン用の色味が若干異なるオレンジを加えた7色しか使われていないとのこと)が壁面色等に用いられていたものの、ブルーナの繊細な鉛筆画を支える背景色としてはちょっと強過ぎると感じたことから、青森では壁の色を木目調に、各種解説パネルも青森の空間では小さく感じてしまうので、パネルよりもひとまわり大きなJパネルを下地に貼った。特徴的なブルーナカラーはむしろデザインという観点から提示したほうが展覧会としては有効ではないかと思い、ホワイト・キューブの展示室ではその色彩世界が体感できるような仕掛けを施し、つい調子に乗ってエレベータの扉までブルーナカラーにしてみたのだが、それで感じたのは、当館の設計者である青木淳は展示室のみならず、館内の至る所をいわゆる「キャンバス」として準備してくれていたのではないかということ。外壁にミッフィーを描いたり、誘導を兼ねていろんなところにミッフィーのイラストを貼り込んだりしたのだが、なにをやっても空間とうまくはまっていくことに今更ながら驚いた次第。「かわいい」すらも違和感なく受け入れてしまう建築としての「懐の深さ」を実感できたことは、今後の展示の可能性にさらなる広がりをもたらしてくれるだろう。
 さらに常設展では作者のブルーナがパリ時代に影響を受けたマティスの版画集《ジャズ》の20点をあわせて展示。たんなる「キャラクター展」で終わらせるのではなく、モダンアートとの関連性を示すとともに、ミッフィーというキャラクターを支えている色、形、線の優れたデザイン性に意識が向くような配慮を行なった。で、最初の話に戻るのだが、例え貸館であっても、例えパッケージングされた巡回展であっても、館の取り組み方ひとつで開催の「必然性」は強く打ち出せる。これまでは当館でも「貸館だから」と割り切って考えることが多かったが、きっかけは偶然であったにせよ、今回のミッフィー展の作業をとおして、いかなる企画であっても常に「青森県美らしさ」を意識することの重要性を再認識させられた。


左=青森県立美術館エントランス(外壁に描かれたミッフィーの顔)
右=エレベーターホール(扉のグリーン、レッド、イエローがブルーナカラー)


「ミッフィー展」展示風景


「ミッフィー展」展示風景(ミッフィー・アートパレード)

誕生60周年記念 ミッフィー展

会期:2015年6月6日(土)〜7月20日(月・祝)
会場:青森県立美術館
青森県青森市安田字近野185/Tel. 017-783-3000

学芸員レポート

 では最後に少し予告を。ミッフィー展が7月20日で終わった後は自主企画の「化け物展」が8月1日から9月13日まで開かれる予定。民俗資料、浮世絵から現代美術、さらには絵本や漫画といったさまざまな表現に表われる「化け物」をとおして、過去から現在に至る人間と化け物との親密な交流を展観する企画。キャッチコピーは「ばけますよ ばけますよ」。これまで「馬場のぼる “11ぴきのねこ”がやってくる ニャゴ!ニャゴ!ニャゴ!」(2009)や「今和次郎 採集講義」(2012)を担当した板倉容子学芸員による、またも一風変わった展示になりそうな気配(笑)。


「化け物展」ポスター
デザイン=大原大次郎

 あわせて奈良美智がディレクターを務め、八角堂を会場として開催されるプロジェクト「PHASE 2015」も始動。今年はフィンランドのデザインユニットであるカンパニーを招聘、世界各地の伝統工芸品をユーモアに富む独自の感覚でリデザインし、新たなプロダクトとして生まれ変わらせる「シークレット」シリーズの一環として青森の工芸品が取り上げられる予定である。題して「ニッポン・北のヒミツ」。学芸担当は「小島一郎──北を撮る:戦後の青森が生んだ写真界のミレー」(2009)や「種差──よみがえれ 浜の記憶」(2013)など青森の風土や歴史に密着した企画を数多く手がけている高橋しげみ学芸員。カンパニーの手により、青森の工芸品がどう生まれ変わり、どのように八角堂にインストールされるのか、いまから楽しみである。


PHASE 2015「カンパニー:ニッポン・北のヒミツ」展示構成のプラン
© COMPANY

 さらに8月28日から9月1日は慶応義塾大学アートセンターとの共催で国際パフォーマンス・スタディーズ学会の日本ではじめての世界大会「PSi 2015 TOHOKU──けがれを超えて:パフォーマンスと東北(身体・霊性・巡礼)」も開催。東北での大会ということで日本のパフォーマンス史に大きな足跡を残した土方巽、そして寺山修司を中心とした講演や研究発表、各種イベントが行なわれる。現在、常設展では土方の活動をコンパクトにまとめた関連展示も設けているが、学会そのものも一般参加プログラムが多数準備されているので、興味のある方はぜひご参加いただきたい。
 以上、9月の休館まで全力疾走の青森県美であるが、休館中もここ3年ほど継続して開催してきた「青森EARTH」をアウトリーチプログラムとして県内各地で展開したり(参加作家は石川直樹、鴻池朋子、森永泰弘の3名。担当は昨年度の「青森EARTH 2014」を担当した奥脇嵩大学芸員)、名古屋では青森県美がプロデュースする「青森展」も。「青森展」は筆者が担当なのだが、コレクション展でも美術館展でもない、新しい美術展の形を考えてみたいと思っている。休館明けの3月中旬からは「青森EARTH 2015」の成果発表展示と、文化庁メディア芸術祭青森展(これも美術館の主催事業ではないのだが、企画には深く関わらせてもらっている)が控えており、そして4月からは開館10周年という大きな節目の1年がはじまる。あっという間の10年であったが、これまでの歩みを振り返りつつ、この先の10年を展望していく1年にできればと考えている。
 ただし問題がひとつ。われわれはいつゆっくり休めば良いのか、だ(笑)。

化け物展

会期:2015年8月1日(土)〜9月13日(日)

PHASE 2015 カンパニー:ニッポン・北のヒミツ

会期:2015年8月1日(土)〜9月13日(日)
ともに会場:青森県立美術館
青森県青森市安田字近野185/Tel. 017-783-3000

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工藤健志

1967年生まれ。青森県立美術館学芸員。企画展=「縄文と現代──2つの時代をつなぐ〈かたち〉と〈こころ〉」「ラブラブショー」「ロボットと美術...

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