2017年11月15日号
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キュレーターズノート

「被災地からの発信・ふくしま3.11以降を描く」展

伊藤匡(福島県立美術館)2016年09月01日号

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 2011年3月11日の東日本大震災とそれに続く東京電力福島第一原子力発電所の事故から5年半が経つ。福島県内では、現在も9万人以上が避難生活を続け、福島第一原発の廃炉作業は、今後数十年にわたって続けなければならない。福島県での震災、原発事故の影響はまだまだ続く。

県内作家にとっての震災と原発事故

 震災の直後から、多数のアーティストが震災や原発事故をテーマにした作品を制作し、また福島県内の各地でパフォーマンスやワークショップの活動を繰り広げた。アーティストの多くは、外国を含めて被災地域外の人々であり、被災した福島県のアーティストたちは、県外からの働きかけの受け入れ側の役割は果たしていたが、震災や原発事故を自己の表現世界の中で受け止めるには、時間がかかった。彼らも表現者である以前に生活者であり、震災直後はさまざまな面で生活の困難や精神的な動揺を強いられた。福島県内の場合、原発事故による放射能汚染の影響などが現在も続いており、心機一転復興へ、とは切り替えられない複雑な思いを抱えている。そんななか、少しずつではあるが、県内のアーティストたちは震災や震災後の状況を表現し始めたように見える。

 そこで、福島県立美術館で9月10日から開催する「被災地からの発信・ふくしま3.11以降を描く」展では、震災とその後の福島の状況をテーマに制作しているアーティストたちが現況をどのように捉え、自己の表現に結びつけているかを紹介する。 出品作家は7人。年齢は20代から70代まで、全員福島県出身または在住である。 最年長の宮本興一郎は、震災後の作品にすべて《Remember3.11》という題名をつけている。爆発した福島第一原発の写真の拡大コピーを200号の大画面に貼り付ける一種のコラージュで、廃墟としての原発のイメージを強調する。松本良子は平坦な色面と物質感の強い絵具のかたまりで画面を構成している。それは、見えない放射能汚染を可視化しようとする挑戦にも見える。ベン・シャーンが第五福竜丸事件を主題に描いた《ラッキードラゴン》で、放射性物質を含んだ黒雲に獅子舞の獅子の顔を描き、「環礁の怪物」と名づけたように、象徴による可視化という手法を連想させる。


左:宮本興一郎《Remember3・11》2013 右:松本良子《風が吹いた日3・15》2013

 油井ひろ子は、公園や街路の樹木が放射能汚染除去のために枝葉を切られた裸木にされた福島市内の情景を繰返し描いている。色彩のない、暗鬱な曇り空は、福島の多くの県民が原発事故後に感じた重苦しい気分を象徴している。片平仁は、爆発した福島第一原発の原子炉をロボットの頭に見立てて、精細だが非現実な異次元空間を、CGを駆使して作り上げている。


左:油井ひろ子《切り棄てられた風景/東浜町》2015 右:片平仁《原発頭Ver.1.5》2016

 20代、30代の作家たちは、震災そのものではなく、自身や家族たちの生活、自分が見慣れていた風景などを描いている。
相馬市出身で東京を拠点に活動する門馬美喜は、震災後著しく不便になった交通の状況に焦点を当てている。福島県北部の海沿いにある相馬市と首都圏を結ぶ常磐線は、津波と原発事故のため、現在も福島県内で途絶えている。そのため、公共交通機関で東京から相馬に行くには、新幹線等で福島市まで行き、そこから相馬行きのバスに乗るか、北の宮城県仙台市まで行って、そこから常磐線と代行バスを使って南下するという大回りのルートにならざるをえない。相馬市は福島第一原発から30キロ圏外で避難対象地域ではなかったが、交通路が途絶えたため、現在でも多大な不便を強いられている。門馬は、被災地域の新たな日常をバスの車窓を通して見つめている。


門馬美喜《JR常磐線。防風林がないので遠くからでも海岸が見える》2016

 20代の齋藤杏奈と坂内直美は、震災時はともに福島を離れ、美大の学生として首都圏にいた。彼女たちにとっては、本格的な絵画制作の出発と震災がほぼ一致している。二人とも故郷福島を描くという志向性をもちながら、それを齋藤は家族をはじめとした人物像で、坂内は故郷南相馬の海をはじめとした風景で表そうとしている。


左:齋藤杏奈《ムーンリバー》2016 右:坂内直美《故郷-19』2015

「震災後の表現」探求のこれから

 「震災後の表現」の探求は、始まったばかりだ。21世紀はじめの世界的事件となった東日本大震災と福島第一原発事故の表現の探求も、十年単位の時間が必要だろう。したがって、この展覧会も中間報告に過ぎない。
 美術史をひもとけば、戦争や災害、大事件は美術作品として記録されてきた。ナチスドイツによる空襲で破壊されたスペインの村は、ピカソの《ゲルニカ》によって世界中の人に記憶されている。ナポレオンのフランス軍との独立戦争の惨劇を目の当たりにしたゴヤは、版画集『戦争の惨禍』の制作に11年の歳月をかけた。第一次世界大戦の悲劇から構想されたルオーの版画集『ミセレーレ』は、構想から公刊まで実に36年を要している。
 アーティストたちの、見えないものを見る力とそれを形にする造形力に期待するとともに、地元の美術館として、継続してアーティストたちの探求を紹介していかなければならないだろう。

「被災地からの発信・ふくしま3.11以降を描く」展


会期:2016年9月10日(土)〜10月10日(月・祝)
会場:福島県立美術館
福島市森合字西養山1/Tel.024-531-5511

■関連事業
□シンポジウム「被災地の表現、その可能性を探る」
日時:9月10日(土) 14:00〜
講師:小勝禮子(美術史・美術批評・前栃木県立美術館学芸課長)、原田光(美術評論家・前岩手県立美術館長)、三上満良(宮城県美術館副館長)
司会:伊藤匡
□️出品作家によるギャラリートーク
(1)9月17日(土) 14:00〜
解説:片平仁、宮本興一郎、門馬美喜、油井ひろ子
(2)10月1日(土) 14:00〜
解説:齋藤杏奈、坂内直美、松本良子
*いずれも会場は美術館企画展示室、事前申し込み不要

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伊藤匡

1956年生まれ。福島県立美術館学芸員。

2016年09月01日号の
キュレーターズノート

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