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学芸員レポート

畠山直哉写真展「まっぷたつの風景」

伊藤匡(福島県立美術館)2016年12月01日号

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 畠山直哉は、石灰石採取場や爆破の瞬間をとらえた「LIME WORKS」や都市の地下や裏側に光をあてた「アンダーグラウンド」などで知られる現代日本を代表する写真家の一人である。同時に畠山は、東日本大震災の津波で大きな被害を受けた岩手県陸前高田市出身で、震災後の故郷陸前高田の風景を定期的に撮り続けている。震災の記録者の一人でもある。
 せんだいメディアテークで開かれている今回の展覧会は約200点が展示されている。


展覧会場入口


変貌する故郷、陸前高田の風景

 会場の前半では、1980年代の「等高線」シリーズや90年代の「アンダーグラウンド」など、早い時期の作品と、2015年のメキシコシティの風景など、畠山の代表的な作品群が並ぶ。会場奥の広い空間では、2011年の東日本大震災以降の変貌する故郷の風景を記録した写真が集められ、全体で約200点の作品を見ることができる。


「アンダーグラウンド」などが並ぶ展示室内




震災後の風景が並ぶ展示室内


 なかでも目を引くのは、膨大な数のコンタクトシート(フィルムのべた焼き)が並べられた長いテーブルである。4,400カット程あるだろうか。震災後の陸前高田の風景を撮りためたものだ。この中から選ばれた数十点が額に収められて壁に展示されている。


陸前高田を撮影したコンタクトシート


 本展の展覧会名は、現代イタリアの作家イタロ・カルヴィーノの『まっぷたつの子爵』から採られている。戦争で身を縦に切り裂かれ、善意の半身と悪意の半身に分かれた子爵が繰り広げる寓意的な物語で、畠山の愛読書だという。展覧会の命名者は畠山自身ではなく、メディアテークの展覧会スタッフのアイデアであることが、オープニング・セレモニーでの畠山の挨拶で明らかにされた。余談だが、メディアテークのスタッフがDJとなって選曲した音楽が流れるなど、形式張らない楽しい雰囲気の会になっていた。

 さて、展覧会名にあるとおり、本展のキーワードは「まっぷたつ」である。言い換えれば、二分されている、語調を強めれば断絶といえるかもしれない。では何が二分されているのか。まず、出品作品群が二分されている。故郷陸前高田を撮った作品群と、それ以外の作品群に分けられている。震災の年の秋に東京都写真美術館で開催された個展「ナチュラル・ストーリーズ」では、震災前にスナップ写真的に撮りためていた陸前高田の風景と、震災後の風景がひとつのコーナーとして紹介されていた。作者の写真に対する姿勢も、二分されているようにも見える。それまで個人的な出来事を主題にしなかった畠山が、故郷の風景、それも失われた風景を提示することに、見る側からの違和感があり、作者にも逡巡が感じられた。それから5年を経て、陸前高田の変貌する風景の写真は蓄積され、現在の作者の中で大きな位置を占めている。陸前高田の写真を撮ることについて畠山は、そこが彼の生まれ育った土地であり、最も親しんだ土地に起こった悲劇的な出来事であり、否応なくその出来事に巻き込まれているからだと語る(畠山直哉、大竹昭子対談集『出来事と写真』赤々舎、2016)。そして、これは陸前高田の写真であって、いわゆる震災写真を撮っているのではない、とも強調している。

「まっぷたつの風景」からの問い

 本展のテーマは「風景」である。では、「風景」とは何か。私たちや現代社会に、どのような意味を持つのだろうか。畠山は近作の写真集『陸前高田2011-2014』(河出書房新社、2015)に「バイオグラフィカル・ランドスケイプ」(伝記的風景)という題の文章を載せている。「あの事実の中で、天災という一般的な大問題と、僕個人の時間とが膠着し、そこに手に負えないような「個人史」が出現したのではなかっただろうか。また、いまの陸前高田に出現している風景とは、歴史以前の時間、つまり「先史=自然史」と呼ばれるような時間が、目の前の時代一切を流し去った結果ではなかっただろうか。」と記している。
 ところで、小説では、善い心の半身と悪い心の半身が決闘してともに傷つくものの、医者の縫合手術によって合体が成功し、もとの全身に戻るという大団円を迎えるのだが、この展覧会では、まっぷたつの状況はどうなるのだろうか。

 オープニング・セレモニーの挨拶の中で、メディアテークの展覧会企画者から「まだ震災のことやっているの、と言われてもやり続ける」という趣旨の発言があった。被災地域にあるアートセンターとして、震災後のさまざまな動きを紹介し、応援していく活動のひとつであろう。同館は展示だけではなく、関連事業にも力を入れている。本展でも、作家とゲストとの対談が行われるほか、参加者が対話する「てつがくカフェ」も予定されている。「展覧会『まっぷたつの風景』から『割り切れなさ』を問う」「展覧会『まっぷたつの風景』から『明日』を問う」というユニークなテーマである。
 畠山自身「世界は言葉でできている」と言うほど言葉への関心が高い写真家であるから、さまざまな人々との対話が、現代の「まっぷたつ」の状況に橋を架ける作業になるという期待が込められている。

畠山直哉 写真展「まっぷたつの風景」

会期:2016年11月3日(木・祝)〜2017年1月8日(日)
会場:せんだいメディアテーク 6階 ギャラリー4200
宮城県仙台市青葉区春日町2-1/Tel. 022-713-3171

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伊藤匡

1956年生まれ。福島県立美術館学芸員。

2016年12月01日号の
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