2018年07月15日号
次回8月1日更新予定

キュレーターズノート

アッセンブリッジ・ナゴヤ 2017

吉田有里(MAT, Nagoyaプログラムディレクター/港まちづくり協議会事務局員)

2017年12月15日号

2016年にスタートした、音楽と現代美術のフェスティバル「アッセンブリッジ・ナゴヤ」。
現代美術展では、まちの資源を生かし、まちを庭と見立て、回遊しながら作品とまちを楽しむことのできる展覧会を企画。作品を鑑賞しながら港まちを歩くことで、鑑賞者は自然とまちを俯瞰でき、細部に気づき、まちを楽しめるような仕掛けとなっている。
今年は10月14日から12月10日までの期間、「アッセンブリッジ・ナゴヤ2017」現代美術部門では「パノラマ庭園 ─タイム・シークエンス─」というタイトルのもと、日本を代表する作曲家、一柳慧が1976年に発表したピアノ曲《タイム・シークエンス》に着想を得て、展示を開催した。《タイム・シークエンス》は反復し変化する音形により展開され、同時に進行する複数の時間の存在が想起される作品である。
時間の流れと土地や場所の関係、生成変化などに焦点を当てる構成で、12組のアーティストが参加した。

港まちポットラックビル

展覧会の始まりである港まちポットラックビルでは、一柳と関係の深いピアニスト・飯野明日香が《タイム・シークエンス》を演奏する映像や楽譜、作曲当時の一柳の言葉に加え、一柳によるオリジナルの図形楽譜などを展示した。
また会期中には、一柳と飯野によるコンサートを実施し、飯野による《タイム・シークエンス》や一柳が師事したジョン・ケージの作曲した曲の演奏、一柳による内部奏法を用いたパフォーマンスなど、会場全体が緊張感を伴いながら、とても濃密な時間につつまれた。また一柳が19歳で渡米した1950-60年代当時の先鋭的な音楽や美術、ダンスなどさまざまな表現が混交したニューヨークの状況や、一柳が影響を多分に受けたケージの表現や活動についてなど、一柳のこれまで活動から今回のアッセンブリッジ・ナゴヤの構想にも重なる話を聞く機会にも恵まれた。

一柳と同じ展示室では、朝海陽子が西表島に3カ月滞在し、同一地点の干潮と満潮時の海の風景をとらえた写真シリーズ《pace》を、その上のフロアでは、五線譜を写し込んだフィルムで月を撮影し、楽譜として発表した野村仁の写真作品《‘moon’score》を展示。1970-80年代に地上から撮影した月の譜と、2009年に宇宙飛行士・若田光一がISS(国際宇宙ステーション)から撮影した月の譜の双方を展示することで、《‘moon’score》が野村の活動のなかでどのように展開してきたのかを示した。それぞれに紡ぎ出された旋律を聴きながら、宇宙と時間との関係に思いを巡らせる展示となった。
ISSから撮影された月の写真によって生まれた交響曲は、これまでコンピュータのみでの演奏だったが、今回「アッセンブリッジ・ナゴヤ 2017」のためにバイオリン、チェロ、クラリネット、フルート、ピアノの5編成に編曲・録音し、会期中名古屋を拠点とする音楽家による公演と、野村によるトークも実施した。


一柳慧《タイム・シークエンス》 右はコンサート風景[撮影:怡土鉄夫]


左:朝海陽子《pace》
右:野村仁《‘moon’score》[ともに撮影:怡土鉄夫]

まちなか展示

港まちポットラックビルから、まちのなかに点在する場所へと展示が続き、会場ごとにまちのなかを移動する動線設計の難しさに直面するのだが、それと同時に、まちのなかに展開するからこそ、まちと作品を深く結びつけて考察できるのではないかと考えた。
例えば「電線越しに見えた月が音符に見えた」と話す野村の作品の着想が、一歩外に出てみると目の前にある誰もが見たことのある日常の風景にあることに気づく。まちを動線上に取り入れているからこそ、作家のアイデアや視点に触れることができる、背景を想像することができる。このように、まちが展覧会のノイズになるのではなく、積極的に展覧会に取り込んでいくことが重要だろう。

まちなかの商店が立ち並び、向かいのパチンコ店の喧騒が聞こえてくる空きガレージでは、日常のなかでしばしば耳にする他人のヘッドフォンやイヤホンの音漏れに合わせてダンスをするパフォーマンスを記録した映像作品《Dancing by myself》を小山友也が展示した。また日常や都市に溢れる事象に着目し、音楽的要素やささやかなユーモアを取り入れて作品を発表してきたユーアン・マクドナルドの映像作品を複数会場で構成した。「鳥のさえずり」「パーティの様子」「飛行機」「大自然と宇宙」などをテーマに、テレビ・ラジオ放送のために作成された擬似効果音を収録したBBCアーカイブのLPレコードが、2台のターンテーブルで回転する様子を映した《The Filed》。この作品を中心に、音楽や現象とより結びつきのある作品が、築地口駅から名古屋港駅へと向かう導線上の江川線沿いに並んだ。


左:小山友也《Dancing by myself》 右:ユーアン・マクドナルド《The Filed》[ともに撮影:怡土鉄夫]

旧・名古屋税関港寮

昨年からメイン会場のひとつになっている旧・名古屋税関港寮。1階では社会や物事の構造や関係をもとに制作活動を展開する豊嶋康子が、これまで発表した作品によって、新たな展示を試みた。展示は名古屋在住の個人コレクターの協力のもと、約20年にも及ぶ期間で蒐集されたコレクションのなかから、80点を超える作品を豊嶋自身が厳選・構成したものであり、豊嶋のこれまでの制作活動を存分に味わうことができた。今回寛大にコレクションを貸し出してくれたコレクターの方をはじめ、コレクションやネットワークも、このエリアにおける資源や財産と考えることができるのではないだろうか。

2階では、片手で2本の筆を持ち同時に描く「2本画」という独自の手法で絵の可能性を探求してきた法貴信也が、近年描きためていた未発表の作品を中心に展示。絵を展示する場所として、個性の強い和室や洋室の空間にそのまま依存することなく、また空間を上塗りした新たな白い壁によって覆い隠すことなく、常に絵を描くことを更新し続ける法貴自身による空間の解釈が遺憾なく発揮された。既存の空間に微妙な傾斜が設計された新たな壁面や、重なりとゆがみを与えられた展示台に展示することで、ホワイトキューブでも日常の場所でもない、緻密に計算された空間のなかで絵画を鑑賞することとなった。
ほかにも同フロアには、アニメ「ドラえもん」から、のび太やドラえもんらの不在の場面のみを繋ぎ合わせて構成される鈴木光の映像作品《Doraemon》や、ベトナム出身のグエン・チン・ティによる、フランスやアメリカによる支配やベトナム戦争など、1950-70年代のベトナムを描いたシーンを世界中の映画から抽出し年代順に並べた作品《Vietnam the Movie》を展示。普段何気なく目にする映像群から、アーティストが用いる手法によってあぶり出される、別の視点や時間軸でとらえられた世界が浮かび上がってきた。


左上:豊嶋康子 展示風景 右上:法貴信也 展示風景
左下:鈴木光《Doraemon》 右下:グエン・チン・ティ《Vietnam the Movie》[すべて撮影:怡土鉄夫]

つむぎ

まちのなかの長屋に並ぶ3軒続きで展開するスペース、以前は染物屋だった「つむぎ」では、山城大督による新作《Fly Me to the TIME.》を展開。今回の展覧会で唯一、新作として制作されたこの作品は、港まちでのリサーチをもとに構成された「タイムラインシート」を手に取ることから始まる。キャプションの素材の項目には、素材として「まちで交わされる複数の約束」と記されていて、この場所を起点に港まちのなかで展開され、その場所、その時を超えて、他者の時間や経験に想いを巡らせる作品であり、鑑賞者はまちの人々と交わした「約束」により生じる出来事にまちのなかで出会う。
例えばそれら「約束」は日々の習慣によるささやかなものから、「ピアノ教室のピアノが弾かれる」「まちにシャボン玉」「大きな船が出る」などある特定の時間にしか出会えないものまでさまざまで、参加者たちはまちの舞台へと入り込むことになった。


山城大督《Fly Me to the TIME.》[写真提供:アッセンブリッジ・ナゴヤ実行委員会]
「タクシーに乗ってドライブ一周」「大きな船が出る」

Botão Gallery

旧・手芸店を改修したウィンドーギャラリー「Botão Gallery」では、冨井大裕が「積層」の手法を用いた彫刻作品を展示。カラフルなスーパーボールとアルミ板、透明度の高いアクリルとPPバンド、鉄板とハンマーなど、既成のモノの組み合わせと積み重ねによってつくられた彫刻が、路面の窓越しに見える。それらの場景のなかで、日常目にするものの本質が見る者に迫り来る。繊細でありダイレクトな表現としてまちのなかに映えていた。また同スペース2階では紙という素材に限定し、ショッピングバッグを組み合わせた彫刻作品を中心に展開。
冨井の作品は、理論的には指示書(スコア)をもとに再現可能であるということも、興味深い一柳との結びつきであったと言える。


冨井大裕 展示風景[撮影:怡土鉄夫]

UCO

昨年に引き続き、約20年間空き家だった旧・潮寿司を改修した「UCO」は、アーティストユニットL PACK.を中心に、カフェや展示やイベントなどを繰り広げるスペースとして活用され、継続して人の集まる「社交場」として場所を開いていた。
今回はL PACK.により「UCO」が「Unidentified “C” Organism」=「未確認な “C” の有機的組織体」と定義され、「Cafe」や「Concert」「Communication」など、「Cを頭文字とする言葉」にまつわるさまざま出来事がつむぎ出された。
さらに新たな試みとして、継続的な企画や運営を目標に「UCO」を運営するメンバーを募り、会期中いつでもカフェが利用できるようになった。またデザイナー・川村格夫が中心となり、誰もが自由に参加しZINE(手製の小さな本)をつくることができるサークル「Chap Books Club」が立ち上がったり、昨年に引き続き「UCO」のロゴを制作したデザイナー・フクナガコウジが有機的組織体をイメージした2017年バージョンの「UCO」ロゴを制作し、シルクスクリーンのワークショップを行なった。
また冨井や山城がL PACK.とコラボレーションをしてモーニングを食べるイベントや、冨井による公開制作、冨井とマクドナルドによる展示、音楽公演など、会期中この場所からさまざまな出来事が生まれた。
「UCO」は継続性をもったプロジェクトであること、また展覧会の枠組みを超え、カフェ、建築、音楽、デザイン、地域のコミュニティなど、「美術」だけに限定しない「場」の設定であることが、さまざまなストーリーを生み出している所以である。


L PACK.《UCO》[写真提供:アッセンブリッジ・ナゴヤ実行委員会]

展覧会の動線の最後は名古屋港ポートビルの展望室である。この地上53mの展望室には、朝海陽子が「時間」と「移動」をテーマに現在も制作を続ける《wayfinding》シリーズから2点の作品を展示した。また展望室からは、名古屋港の工場が立ち並び、輸入輸出のコンテナ船が行き来する姿が見え、産業港としての景色と人々の生活が営まれる都市の片鱗としての港まちを同時に見渡すことができる。
 フェスティバルが終われば、まちは日常の景色に戻っていく。継続性を持つこと、アートが恒常的なまちづくりの活動と連動することによって、まちの風景がどのように変化していくのか、長期的な実践によってその景色を見届けていきたいと思う。

Assembridge NAGOYA 2017 現代美術展「パノラマ庭園 ─タイム・シークエンス─」

会場:名古屋港〜築地口エリア一帯
会期:2017年10月14日(土)〜12月10日(日)
   会期中の木曜、金曜、土曜、日曜開催
詳細:http://assembridge.nagoya/

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