2018年10月15日号
次回11月1日更新予定

キュレーターズノート

街の変わりゆく景色をどのように残すべきか

吉田有里(MAT, Nagoyaプログラムディレクター)

2018年09月15日号

名古屋の港まちをフィールドに活動しているアートプログラム「MAT, Nagoya」と、毎年秋に開催する音楽とアートのフェスティバル「アッセンブリッジ ・ナゴヤ」。この二つの活動にとって、重要な場所である「Botão Gallery(ボタンギャラリー)」「UCO」「つむぎ」が、10月末を機に取り壊されることになった。これまでの活動を振り返るとともに、都市や地域の移り変わりとアートプロジェクトにおける「場」のあり方について考えていきたい。

ボタンギャラリー 、UCO、つむぎの風景[撮影:怡土鉄夫]

2018年3月、突然の知らせがあった。「Botão Gallery」「UCO」「つむぎ」のオーナーから、建物の真裏に位置する空き家が取り壊されることにともない、同じタイミングで3軒を取り壊したいという連絡が入った。この3軒は、拠点となる「港まちポットラックビル」からもほど近く、長屋の構造を活かして、長期的な活用を見込んで運営してきた場所であっただけに、突然の取り壊しの連絡に、どのように現実を受け止めてよいかわからないというのが正直なところであった。

港まちづくり協議会、アッセンブリッジ・ナゴヤの事務局である名古屋市、建築家とともに、オーナーに向けて存続の可能性を残すため、オーナーに向けた提案を数カ月に渡り協議をし、なんとか継続できないか交渉を進めてきたが、まちづくりや文化活動の一環として、通常よりも賃料も安く借用していたこともあり、オーナーの決定を覆すことはできなかった。オーナーは、ここ近年の活動を好意的に見守っていてくれたのだが、建物の老朽化、取り壊しの経費のコストなどを考え、経済面、効率面を鑑みての判断となった。取り壊したあとの活用については、未定となっている。

それでも、当初の予定よりは半年ほど延長して物件を借りる承諾が得られ、私たちが使用できる期間は10月末までとなったのである。


Botão Gallery(ボタンギャラリー)

ボン靖二《ホームセンター》展示風景[撮影:城戸保]

「Botão Gallery」は、旧手芸店の空き家を渡辺英司と改修したウィンドウギャラリーとして2015年から継続的に展示を行なってきた。MAT, Nagoyaの活動母体である、港まちづくり協議会での「空き家再生事業」の枠組みで始まったこの「Botão Gallery」のプロジェクトは、“寝ている家を起こす”というコンセプトの「Wake Up Project」の一環で、数多くの空き家が存在する港まちエリアでの、再生のモデルとなった場所である。

改修の初日に、旧手芸店の床に落ちていたボタンを拾ったことから「Botão Gallery」と名づけられた。渡辺英司は、アーティストとして世界各地で作品を発表するかたわら、これまでも拠点である愛知県内で、譲り受けた場所や安価なスペースを活用してギャラリー空間をつくり、若手の作家や渡辺が海外の展示先で出会った作家たちを日本に紹介する活動を行なってきた。Botão Galleryでも、MAT, Nagoyaと渡辺の共同企画として、これまで3年間の間に14回の展覧会を開催している。

20代のころ、床大工としての仕事をしていた経験を持つ渡辺のつくる空間は、DIYらしさのある味のある仕上がりで、空間的な余白を残していた。ここで展示するアーティストたちは、この余白をそれぞれが得意な手法を用いて、ときに大胆に、空間に合わせたインスタレーションを生み出していた。また、ガラスのドアは歩道を歩く人が作品を鑑賞できる場所として、展示が変わるごとに、まちの景色を少しずつ変化させていた。

平山昌尚《PICTURE》展示風景[撮影:城戸保]

ダニエル・ゲティン《DOUBLE VIEW》展示風景[撮影:怡土鉄夫]

ポール・フーデ 《ニューロ・ホワイト》 パフォーマンスの様子


UCO

UCOの風景

「UCO」は、2016年にスタートしたアッセンブリッジ・ナゴヤの会場として、約20年もの間空き家であった「潮寿司」を改修したスペースである。アッセンブリッジ・ナゴヤの出展作家であるL PACK.(小田桐奨、中嶋哲矢)とともに、この建物での「まちの社交場」をつくるプロジェクトをスタートした。電気も水道も停まっていた場所を開いて、空き家に放置された大量の家財道具や機材を廃棄することから始まり、アッセンブリッジ・ナゴヤのアーキテクトの米澤隆とともに、構造の調査、耐震についても検討しながら、計画を立て段階的に改修を行なっていくことになった。「空き家再生スクール」というワークショップ形式で、構造家の監修のもと、耐震補強のための壁や梁の増築をしたり、床を落として吹き抜けをつくり、傾いていた2階の床を貼り直すなど、大がかりな改修工事を行なった。工務店も社会貢献事業として参加し、ワークショップに参加する人々とともに改修を行なっていった。

構造、耐震の補強をしたのち、L PACK.が、彼らの活動のコンセプトである「コーヒーのある風景」(コーヒーを飲む環境が建築でもあり、作品となる)にふさわしい空間をつくり出してくれた。カフェ機能だけでなく、展示やイベント、ライブなどにも活用され、継続して人の集まる「社交場」として場所を開いていった。

L PACK. モーニングイベントの様子 アッセンブリッジ ・ナゴヤ2017[撮影:怡土鉄夫]

2017年からは、週3日限定でカフェをオープンしている。横浜拠点のL PACK.に代わり、有志のメンバーが日替わりでカウンターに入り「社交場」の運営に参加してくれている。フェスティバル期間外も営業することで、少しずつではあるが、地元の常連さんも来てくれるようになった。また、2017年のアッセンブリッジ・ナゴヤの期間中からは、L PACK.の提案で「UCO」を「Unidentified “C” Organism」=「未確認な “C” の有機的組織体」と定義し、「Cafe」や「Concert」「Communication」など、「Cを頭文字とする言葉」にまつわるさまざま出来事をつなぐようになった。これによって、ここを拠点にした小さなサークル活動が自発的にスタートしていった。手製本の小さな本をつくる「Chap Books Club」、家具をつくり、メンテナンスする「Carpenters Club」、アートの論考を読む勉強会「Critical Conversation Circle」、カレーのレシピ教室「Curry Club」など、それぞれがこの「場」を部室のように利用している。アートフェスティバルのプロジェクトとして始まった「場」が、展覧会の枠組みを超え、カフェ、建築、音楽、デザイン、地域のコミュニティなど、「美術」だけに限定されない「場」となり、さまざまなストーリーが生まれている。

Chap Books Club 活動の様子[撮影:怡土鉄夫]


つむぎ

山城大督《Fly Me to the TIME.》展示風景 アッセンブリッジ ・ナゴヤ2017[撮影:怡土鉄夫]

「UCO」同様に、アッセンブリッジ ・ナゴヤでの会場として、段階を経て改修していった「つむぎ」は、その昔、「いずみや染物店」として和装職人の小さな作業場であった。アッセンブリッジ・ナゴヤでは、徳重道朗、鈴木悠哉、山城大督が、小さいながらも、特徴ある空間を活かした展示を行なってきた。また、中心にある3本の柱を活かした展示台や、特徴的な大きなガラス窓などの制作は、多くのプロジェクトにインストーラーとして参加しているミラクルファクトリーが制作してくれた。

山城大督《Fly Me to the TIME.》展示風景 アッセンブリッジ ・ナゴヤ2017[撮影:怡土鉄夫]



当初は長期的な活用を見込んで「場」をつくり、プロジェクトにおける重要な場所となってきただけに、取り壊しという残念な結果になってしまったこれらの場所だが、今回の取り壊しの一件で、よくも、悪くもさまざまな意見をもらうことになった。建物はなくなってしまうものの、この「場」をきっかけに生まれた出来事や活動、関係性や機能を今後、まちにどのように残し、移行していくことができるか、その可能性をこの「場」に関わった多くの人々とともに意見や知恵を出し合って考えていきたいと思っている。

私たちの活動拠点のある築地口商店街のエリアでは、昨年だけで7件の商店や飲食店が閉店している。閉店の理由はさまざまで、一概に結論づけるのは難しいのだが、全国の多くの商店街でも起こっていることなのだろう。

まちの景色が変わっていくのと同様に、状況が変化していくのは受け止めるべき現実であろう。所有の土地ではない場所で、安価な賃料で利用してきたアートスペースやスタジオが同じように取り壊しにあった事例も少なくはない。

このことをきっかけに空き家を借り受け、場所を開いていくことへのさらなる覚悟とともに、あらためて「場所」の持つ重要な役割を強く意識することとなった。

10月6日より開催するアッセンブリッジ ・ナゴヤの現代美術部門では、「パノラマ庭園─移ろう地図、侵食する風景─」と題し、いまここで起こっている街の風景の移り変わりや、変化を受け止めながら、小さなアクションを起こし続け、その変化を記録し思考する媒体・プラットフォームとしてプロジェクトを展開していく。また、今回の取り壊しをきっかけに、シンポジウムやイベントを予定している。

「アッセンブリッジ ・ナゴヤ 2018」

会期:2018年10月6日(土)〜12月2日(日)
会場:名古屋港~築地口エリア一帯
公式サイト:http://assembridge.nagoya/

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