2017年12月15日号
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トピックス

荒波と揺りかご──gggとグラフィックデザインの30年

内田伸一

2016年05月15日号

 2016年4月、ggg(ギンザ・グラフィック・ギャラリー)がリニューアルオープンした。今年は開館30周年の節目でもあり、リニューアル第一弾企画は、これを記念した「明日に架ける橋 gggポスター1986-2016」となった。その様子と現場の声をもとに、新生gggの姿をレポートする。


[撮影:藤塚光政 Mitsumasa Fujitsuka]

波打つ歴史のなかで

 gggは1986年、大日本印刷の旧銀座ビルの1階にオープンした。その後1991年、同じ場所に現在のDNP銀座ビルが竣工し、gggはその1階と地下1階の構成となった。このたびビルのリニューアルを機に、展示空間の湿度管理やバリアフリー性の向上(車椅子/ベビーカー用導線の設置)が図られた。また2Fには「グラフィック・アーカイブ・ライブラリー」を新設している。


2Fの多目的ホール。催事等がない会期中は「グラフィック・アーカイブ・ライブラリー」として公開される。ggg刊行の図録や図書が自由に閲覧できるほか、タブレット端末では、これまでの展覧会の模様などを映像や写真で見ることができる。正面のスクリーンでは、gggの過去30年の展覧会ポスターを年代順にクロニクル風に紹介していた。


 gggの誕生は、初代監修者となった田中一光と、大日本印刷・北島義俊社長の発案で実現した。当時、商業美術に軸を置くグラフィックデザインでは少なかった、デザイナーごとにその表現を紹介できる場所を、との想いがあったという。これを出発点に、続くdddギャラリー(1991年に大阪で開設、2014年に京都へ移転)、CCGA現代グラフィックアートセンター(1995年、福島県須賀川市に開館)も生まれた。いずれも2008年からは公益財団法人DNP文化振興財団が運営する。

 改装後初の展示「明日に架ける橋 gggポスター1986-2016」会場には、歴代展のB全版オリジナルポスターが全364展分集結。会場内を波打つように、蛇腹状にポスター群が展示された(展示設計は矢萩喜從郎)。第一回展「大橋正展 野菜のイラストレーション」から、改装中の今春、日比谷図書文化館での「祖父江慎+コズフィッシュ展」まで。時系列に展開されたそれらが伝えるのは、人々とグラフィックデザインを、また世代・国境を超えて表現者・関係者間をつないできたgggという架け橋に刻まれた足跡と言える。


第1回 大橋 正展「野菜のイラストレーション」/第2回 福田繁雄展「ILLUSTRICK 412」/第9回 追悼・ハーバート・バイヤー展「ヴィジュアル・コミュニケーションのパイオニア」/第91回 ソール・バス展/第97回 永井一正展/第108回 田中一光展 「人間と文字」/第269回 M/M (Paris): The Theatre Posters/第315回企画展 横尾忠則 初のブックデザイン展/日比谷図書文化館特別展(ギンザ・グラフィック・ギャラリー共同企画) 祖父江慎+コズフィッシュ展 ブックデザイ


 田中や亀倉雄策、永井一正、福田繁雄ら、昭和グラフィックデザインの牽引者たちの仕事はもちろん、海外の表現を意欲的に紹介してきた歴史も再確認できる。バウハウス出身のハーバート・バイヤー回顧展(1986)、映画ファンにも人気のソール・バス(1993)、また先日急逝したボウイのラストアルバムも手がけたジョナサン・バーンブルック(2004)、近年パルコの広告も手がけるM/M(2008)など。
 また、横尾忠則や粟津潔のような異才に加え、イラストレーションや絵本などから平面表現としてのグラフィックデザインを捉える企画も。さらにミュージシャンでもある立花ハジメの「初の個展」(1992)、「アーヴィング・ペン展 三宅一生の仕事への視点」(1999)、デジタル表現との関係を探る前田ジョン(1996、1999)など領域横断的な展示も見られる。ライゾマティクスが田中一光らのポスターを解析した「グラフィックデザインの死角」展(2015。2016年5月末から京都dddで巡回展)も記憶に新しい。毎年のADC(東京アートディレクターズクラブ)展、TDC(東京タイプディレクターズクラブ)展にも会場提供しており、これらのポスター通覧からは、特に時代の変遷を感じる。

新たな架け橋の必要性


[撮影:藤塚光政 Mitsumasa Fujitsuka]

 gggの北沢永志キュレーターは取材に対し、ポスターを通じたこうした歴史の紹介の企図を語ってくれた。そのひとつは、出展デザイナーが自ら手がけたものも多いこれらの作品を通じて、歴史に橋渡しをすることだ。
 「歴史をさかのぼれば浮世絵の時代に絵師、彫師、摺師の協働でよい作品が生まれてきたように、デザイナー、製版、印刷のよい緊張関係による実験精神は、グラフィックデザインの原点でもありました。同時に印刷技術の発達も彼らの切磋琢磨の積み重ねに依る部分は大きく、これはgggの出自にもつながっています。一方でここまでグラフィックデザインが身近になり、それを志す者もクオリティはともかく“コンピュータで誰もが簡単に作品をつくれてしまう”環境にある時代に、改めて先輩諸氏が残してくれた本物の遺産に触れ、感じ、考え、血肉化してほしい。ポスターは劣化のしやすさなどから近年は貸出も難しくなっていますが、姉妹機関のCCGAが今回の全出展作を収蔵しており、いまわれわれにできることとして実施の意義があると考えました」。

 また、展覧会名からすぐ連想されるのは、サイモン&ガーファンクルの往年の同名曲(原題:Bridge over troubled water)だろう。同展には、素朴に希望を謳うだけでもないこの曲の“troubled water(荒波)”に重ねる眼差しもありそうだ。
 「大きな変化の30年でもありました。ggg設立時前後にあたる、日本のグラフィックザイン黄金期と、それを支えた昭和の巨匠たちの他界。コンピュータとインターネットに代表される新メディアの登場。もちろん同時に発展と広がりもありましたが、ひとつの時代の終焉と見ることもできます。加えて、東京五輪エンブレム問題のような出来事もあり、つくる側と受け取る側の関係性など含め、日本のグラフィックデザイン業界はいま、いくつかの困難さを抱えています。本展企画にあたっては、だからこそ、ここから次代の揺籃期が始まればという想いもありました。人々によいものを見ていただく場として生まれたこのギャラリーが、遺産をどう解釈・活用し、次の30年を戦うグラフィックデザインにどう貢献できるかということです」。(北沢)
 確かに同展を見る者は、昨年から巷を騒がせた「東京五輪エンブレム問題」も意識せざるをえないかもしれない。当初の選出案デザイナー・佐野研二郎や審査員陣の展覧会も多数見られ(永井一正審査委員代表はgggの現監修者でもある)、60年東京五輪エンブレムの亀倉や、今回の騒動で比較されたヤン・チヒョルトも登場する。ベテランから新鋭までを紹介し、常にこの領域の結節点であった同ギャラリーの立ち位置からは、むしろ当然のこととも言える。エンブレム問題についてここでは、今後こうした審査における一層の透明性が望まれるだろう、との所感に留めたい。

 他方、上述の「いくつかの困難さ」はこうした出来事のみに依るものではないだろう。グラフィックデザインの広がりは、同時にその総体をつかみ取りにくいものにし、領域横断的な展示の隆盛は、かつて紙と印刷を軸に発展してきた時代と同様にはグラフィックデザインを論じていけないことと表裏一体ともとれる。またこの30年間、社会的にはバブル経済とその崩壊、甚大な自然災害の発生などもあり、gggでも「明日のデザインと福島治[Social Design & Poster]」展(2014)のような企画が生まれた。「次の30年を戦う」との言葉で言えば、ちょうど30年で幕を閉じたその歴史を扱った「広告批評展 ひとつの時代の終わりと始まり」(2009)ポスターを前に考えることもあるだろう。波打つポスターが生む風景は、そうした変化と課題が単体ではなく、どこかですべてつながっていると示すようでもあった。

これまでの30年、これからの30年

 表現の現場からの声はどうか。例えば、420頁のボリュームとなった同展図録には、後半数十ページを割いたテキストセクションがある。掲載されたのは、元プッシュピン・スタジオのポール・ディヴィスなど、gggと縁のある海外のデザイナーやデザインミュージアム関係者、評論家たち、総勢32名からのメッセージだ。各人には、ギャラリーのこれまで/これからの活動に対する批評がリクエストされた。

 「30周年の賛辞・祝辞をいただいたことにも勇気づけられた一方、依頼当初の想いは、gggという場への率直なクリティークをぶつけてもらえたらというものでした。そうした面でも有益な言葉をいただけた部分があり、今後に活かしたい」と北沢キュレーターは言う。海外からの視点による回顧や賛辞はgggが果たしてきた役割を相対化して教えてくれるが(展示と共に出版物への評価が高いのも印象的)、彼らにとっても未来につながる批評は、簡単ではないだろう。
 そうしたなかで、アラン・チャンの提言のように、銀座の一等地にあって国内外各地からアクセスしやすい反面、けっして広いとは言えないgggの空間拡張の可能性、またgggの歴史の資源化を見据えたアーカイブ空間設立を示唆する言葉もあった(同ギャラリーの訪問時にはいつも、向かいのアマンドで休憩しつつこうした未来を想像する、との告白と共に)。場所の件は簡単ではないが、新装gggを拠点に、ときに別会場でも特別展をという展開ではどうだろう。改装中に日比谷で行なわれ、2カ月で約1万6千人を集めた前述「祖父江慎+コズフィッシュ展」のような例もすでにある。


「祖父江慎+コズフィッシュ展:ブックデザイ」会場写真(日比谷図書文化館)


 オープンなアーカイブ閲覧施設については、今回2Fに併設された「グラフィック・アーカイブ・ライブラリー」に期待がかかる。まずはギャラリーの活動を通じて生まれた『ggg Books』(世界のグラフィックデザイン)シリーズや展覧会図録、年鑑『Graphic Art & Design Annual』などの関連書籍を揃えてのスタート。設置タブレットを使った過去展アーカイブや、来場者のスマホでの関連電子図書の閲覧も可能になっていた。今後は蔵書の充実と、多目的空間としての活用も図られるという。


左:タブレット端末。展覧会のポスター一覧や出展作家リストから、開催された展覧会の様子を動画や静止画で見ることができる。コンテンツは、順次拡大していく予定という。ちなみにこの端末「IROMI」もDNP製。
右:電子図書館「ggg電子文庫」。2Fホールでは、自分のスマートホンやタブレットを使って、「ggg電子文庫」にアクセスし、ggg Booksやartscape選書など100を超えるコンテンツを無料で閲覧できる。いわゆる電子図書館システムの館内モードと呼ばれる、この場所限定のサービス。


 「荒波を揺りかごに」などと書くと、舞台が銀座からいきなり玄界灘に、サイモン&ガーファンクルから唐津のお囃子に飛躍してしまうだろうか。しかし、gggが30周年の節目にただ祝賀ムードあるいは感傷に浸ることなく、ある種のファイティングポーズをも示したのだとしたら、訪れる側としても嬉しく、期待したい次第である。

ギンザ・グラフィック・ギャラリー第352回企画展
ggg30周年記念展 明日に架ける橋 gggポスター1986-2016

会期:2016年4月15日(金)〜5月28日(土)
   11:00〜19:00(日曜・祝日休館)
会場:ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)
   東京都中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル
   Tel. 03-3571-5206

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