美術館や博物館における新たな展示手法や情報システムを考えるとき、とかく企画や技術オリエンティッドに陥りがちなのはいずこも同じ。そんな折も折、岡山県の奈義町現代美術館から、なんともユニークで、送り手の気合がひしひしと伝わってくるような展覧会案内が届いた。奈義町現代美術館は、建築家の磯崎新がプロデュースし、3人の作家、宮脇愛子・荒川修作・岡崎和郎の作品のみが建築物と一体となって展示されていることで知られるとともに、磯崎が提唱する“第3世代の美術館”の代表的な美術館のひとつでもある。案内は、11月11日から開催されている「岡崎和郎 HISASHI光と影を割かつもの」展のために用意されたもの。何と岡崎が35年前に発表したオブジェ「hear something…」が紙簡で再制作されており、美術館の真意は解らないが、受け手にとっては単なる案内をはるかに超えた贈物になったのである。感動して紙簡を握りしめ、遠路を岡山県奈義町に駆けつけたファンも数多くいたと聞く。さらに展覧会もさることながら、オブジェのように作りこまれた型破りな図録も見事である。岡崎が60年代後半に発表したGiveawaysシリーズを彷彿とさせる執拗なまでの拘りは、多くの来館者を魅了するに違いない。戦後一貫して独自の視点から作品を発表しつづけてきた岡崎和郎の展覧会ならではと片付けるのは容易だが、展覧会案内と図録という最も伝統的なツール(情報コミュニケーション)で、受け手の共感をこれほどまでに呼び起こしたことはやはり驚きだ。先に美術館と企画に携わった学芸員やスタッフの気合と書いたが、受け手の側に立った彼らの発想や情熱がなければこう
した企画は成立し得なかっただろう。その意味において、「これもIT?」と問われれば、「YES!忘れているのは、ITを担うハートだ」と答えたいと考えるのである。
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岡崎和郎
展覧会案内 |
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「岡崎和郎 HISASHI光と影を割かつもの」展カタログ |
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奈義町現代美術館
「岡崎和郎 HISASHI光と影を割かつもの」展
2001年11月11日〜2002年5月11日 |