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カタログの電子書籍のための現状と問題点
歌田明弘 |
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ミュージアムのカタログは、展覧会の会期が終わり、品切れになるとそれっきり。手間ひまをかけて作られているのにもったいない、それならば電子書籍化したらどうか、という話を前回書いた。 以前はCD-ROMなどパッケージの形で販売される電子書籍がほとんどだったが、インターネットが普及してからは、百科事典や辞典類を除いてこうした形の電子書籍はすっかりすたれてしまった。 いまは、ネットで購入し、ダウンロードして読む形の電子書籍が多い。電子書籍を読むためのソフトをインストールして、読みやすく表示するビュアーも無料配布されている。 電子書籍はどれぐらいの点数が出ているのだろうか。 インターネットが普及するよりもっと前、パソコン通信の時代からネットを使って電子書籍を販売してきた「パピレス」は8400冊をダウンロード販売している。文庫を出している出版社による「電子文庫パブリ」は3000点を超え、シャープの携帯端末「ザウルス」の電子書籍「ザウルス文庫」も2000点を超えている。また、版権の切れた本などの電子化をし無料で公開している青空文庫の電子書籍も1800点を超えたそうだ。さらに、ネット書店の「アマゾン」も、アメリカのサイトに続いて日本でも、洋書の電子書籍ダウンロードを始めている。 ミュージアムのカタログは、これまで販路が限られていた。カタログを電子書籍化し、ネットでダウンロードしたとしても、それぞれのミュージアム・サイトで売るのでは販売部数が限られるが、各地のミュージアムがまとまって入手可能なカタログを一覧できるサイトを作ればマーケットが広がるだろう。 電子書籍の問題点は、さまざまなフォーマットが乱立していることだ。 おもな電子書籍フォーマットとしては、まずアドビのソフトがある。PDFファイルを作ったアドビは、電子書籍表示ソフト「eBook Reader」を開発した。サイトでビュアーを無償配布するとともに、このフォーマットの電子書籍を売っている。 ボイジャー社は電子書籍からテキストやウェブ・ページまでを読みやすく表示する「T−Time」というビュアー・ソフトを作ったが、さらに「ドットブック」というウェブで縦書きで立ち読みができるシステムも開発した。 さらに、印刷会社のトッパンも「ブックジャケット」というビュアー・ソフトを作っている。 このほか、次号で取り上げる、PDAで読む電子書籍のフォーマットもある。 いずれも読者が使うビュアー・ソフトは無料だが、出版元が使うオーサリング・ソフトは有料で、ライセンス料とか、著作権管理や販売のためのコストもかかる。それぞれの電子書籍ごとにお金を払っていたのではたまらない。 アドビの場合だと、アドビのソフトを使ってPDFファイルに変換したうえで、それを暗号化して電子書籍化するサーバーソフトに、250タイトルまでで70万円近くかかる。 「T−Time」で電子書籍化する「パブリッシャーズ・キット」は3万円だが、立ち読みシステムの「ドットブック」を使うには、月5万円の基本使用料を払う必要があるといった具合に、電子書籍フォーマットごとに経費がいる。 2000冊を超えている「ザウルス文庫」の販売部数は、年々倍増しているそうだが、それでも月6000ダウンロードだそうだ。平均すると一冊あたり月3部ということになる。短期的に採算あわせをしようと思うと、なかなか大変だ。 ただし、文庫の電子書籍では単価が安いが、ミュージアムのカタログの場合はそこそこの値段がつけられる。たくさん売れなくても採算が合いやすい。 それに、ミュージアムが作るカタログは、利益をあげるためだけのものではないだろう。展覧会の記録をきちんと残し、ミュージアムのアイデンティティを作っていくためのものでもある。そうした記録的文献を絶やさずに残しておくことのメリットは、経済効果には換えがたいものがあるのではなかろうか。カタログを永久に残せる電子書籍化は、ミュージアムの運営におけるカタログの位置づけを高めるに違いない。 次回は、新しいトレンドになってきた小型の携帯端末PDAを使った電子書籍をとりあげよう。 |
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