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インタラクティヴ・ポスター
歌田明弘 |
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ミュージアムにはポスターがつきものだ。展覧会の宣伝とかイベントのお知らせなどに使われている。また、ミュージアムに行くと、今月のスケジュールなどが張りだ されている。 ところが、その場所に行ってみると、「予定が変わりました」と言われることもある。「どこそこにあった掲示を見たんですけど」と言うと、案内を変えるのが間に合 わなかった、などと言われる。言われたほうは「そんな」と思うが、たしかに印刷 してあちこちに張り出したものを瞬時に変えることはできない。 展示の解説文にしてもそうだ。解説を書いた人間があとになって、あそこを変えればよかったな、と思っても、おいそれとはいかない。手間も費用も時間もかかる。 ましてや、その日の気分で、というわけにはいかない。雨の日だろうが晴れの日だろ うが、あるいは嵐が来ようが雪が降ろうが、展示空間はしかるべき時間が経つまで、 じっと変わらずそのままというわけだ。 でも、これからもずっとそうなのだろうか。 そんなことはあるまい。 前回とりあげた電子ペーパーは、コンピュータ のディスプレイに表示されていたテキストやグラフィックを、薄くて軽い紙のような メディアに映し出すことができるだけではない。ポスターの代わりにもなるのだ。実 際に、公共の場所で最初に見ることができるようになった電子ペーパーはポスターだ った。1999年5月、アメリカのデパートで、スポーツ用品のポスターが天井から吊り下げられ た。見た目はカラーに見えたが、実際に電子ペーパーが使われたのは白黒の文字部分 だけだった。しかしそれでも、簡単に表示を変えられるようにはなっていた。ポスタ ーに電波の受信装置をつけておけば、パソコンなどで入力した文字を無線送信して、 天井からポスターを下ろさなくても表示を変えることができる。 デパートのポスターの次にひと目に触れた電子ペーパーはもっと興味深いものだっ た。 サンドイッチマンの掲げる広告だ。「Yahoo!」のショッピング・サイトの電 子ペーパー広告を持ったサンドイッチマンが、休日のニューヨーク、シカゴ、サンフ ランシスコなどの街を歩きまわった。 その広告には、「夜ずっと遅くまでやっています」とか「パーキングは必要ありません」などと書かれていた。ウェブ上のショップなのだから24時間営業も駐車場がい らないのも当たり前だが、歩行者の笑いを誘って、関心をひきつけたというわけだ。 サンドイッチマンは携帯端末を持っていて、歩く人々の反応を見ながら、表示を変えられるようになっていた。これまでのサンドイッチマンは、あたえられた広告を持って黙々と歩くことしかできなかったが、これからのサンドイッチマンはもっと創造 的な仕事ができると、電子ペーパーを世に送り出した人々は言っていた。 美術館のポスターや掲示についても、同じことが言えるだろう。まわりの情勢の変 化に関係なく、最初に決められたものをただ黙々と表示し続けるのではなく、時々刻 々、変化させる。そうすることで、静的なミュージアムの空間を活気づけることもで きる。ただし、それをやるにはちょっとした創造性を求められるだろうから、もしか すると、展示側にとってはしんどいことではあるかもしれない。しかし、電子ペーパ ーを作った人々の言い分にしたがえば、サンドイッチマンだってこれからは創造性を 求められるのだ。 街なかに張り出したポスターも、ずっと同じである必要はない。小型の電波受信機 をつけておけば、いつでも気軽に一瞬ですべてのポスターの表示を変えることができ る。 「オープンまであと○日!」とか、「ついに始まった○○展!」、「クローズまであ と○日、お見逃しなく!」といった具合だ。 品がない? スーパーの売りこみのようだ? まあそうかもしれない。 しかし、 「水曜日の午前中は意外にすいています」とか「オープン当初は混雑してご迷惑をお かけしましたが、少しすいてきました。混んでいてあきらめられた方は是非どうぞ」 などというのは、来館者には喜ばれる情報だろう。わざわざポスターを作るのはコス トがかかるが、電子的な表示になっていれば変えるのはいとも簡単だ。どんなふうに作るか、どんなところに使うかはミュージアムの感性にかかっている。 [うただ あきひろ] |
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