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「仮想ノーベル・ミュージアム」の愉しみ方
歌田明弘 |
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今年は、田中耕一さんがノーベル化学賞、小柴昌俊さんがノーベル物理学賞と、史上初の日本人2人受賞となり、テレビでも連日のように彼らの動向がとりあげられた。だから、ノーベル賞のサイトにアクセスした人も多かったかもしれない。 ノーベル賞は94年に初めてネットを使って発表され、翌年には公式サイトが作られた。「Nobel e-Museum」と名づけられて年々充実し、文字通りネット上のミュージアムにしようという意気込みが感じられる。 アクセス数も、当初1、2年は年100万ヒットぐらいだったが、98年に2000万ヒットを超え、以後も急増を続けて、2001年には、2億4000万ヒットに達したという。教育機関からのアクセスが多いのだそうだ。このサイトをじっくり見ると、教育的な配慮が必要なミュージアム・サイトを作っている人々にとっても得るところが多いだろう。 興味深いことに、アメリカ、ヨーロッパに続いて日本からのアクセスが多いらしい。一昨年の白川英樹さんのノーベル化学賞以来、日本人の受賞が続き、さらにノーベル賞の受賞を「国家目標」にしはじめた日本のノーベル賞熱を表わしているかのようだ。 ノーベル賞のサイトでは、1896年に死んだアルフレッド・ノーベルの生涯とかノーベル財団の紹介、ノーベル博物館の案内といった定番的なページからはじまって、受賞者の業績やスピーチがずらっと並んでいる。サイトができて以後のものはもちろんだが、1901年のレントゲン博士らが受賞した第1回以来のページができている。1921年にノーベル物理学賞を受賞したアインシュタインの記念講演などももちろん読める。 教育機関からのアクセスが多いのは、そうした歴史的な興味にもまして、このサイトが、丁寧でわかりやすく、しばしばとてもおもしろい第一級の最先端科学解説を提供しているからだろう。さらにより詳しく知りたい人のために関連サイトへのリンク・リストもできていて、科学への関心を深められるようになっている。 解説も、2000年以後は、3種類準備している。プレスリリース版はA4の紙1枚ほどのごく簡単なものだが、そのほかに、専門知識を持った人向け、一般向けと2種類の詳しい解説ページがあり、読者のレベルにしたがって選べるようになっている。一般向けの解説ページは興味を惹くように書かれており、研究の具体的な内容や意味を知りたい人にはお奨めだ。 10年ほどまえからの受賞者についてはインタヴューまで載せている。最近は、授賞式に出席した全員のインタヴューが載っている。 充実の一途をたどっているこのサイトに、さらに「Educational」と題したコーナーも生まれた。ネット上の仮想空間を歩き回ったり作業に加わったりしながら、受賞研究をふくめた最先端科学がどのようなものでどういった研究をしているかがインタラクティヴに体験できるようになっている。 たとえば、「Educational」ページのひとつ「バーチャル・バイオケミストリー研究室」では、ガイド役の女性科学者の解説を聞きながら、「タンパク質製造」とか「X線解析」など5つの部屋をまわり、試験管に薬品を入れたり解析装置にかけたりして研究を体験していく。 このページは、田中耕一さんと同時受賞した研究者のパートからのリンクになっているが、今年のノーベル化学賞の3人はみな「タンパク質をはじめとする生体高分子の同定と構造解析の手法を開発した」という理由で受賞しており、田中さんの研究についての解説にもなっている。 英語が読めても聞き取れない日本人にはありがたいことに、音声での説明は、そのまま吹き出しとなって文字でも確認できる。中学生ではちょっとむずかしいかもしれないが、高校生ぐらいだったら、こうしたページを経巡りながら、英語と生物や化学、物理などの勉強が一緒にできてしまうだろう。 化学賞関連の「Educational」ページはこのほか、遺伝子や細胞の働きについてと、昨年ノーベル化学賞を受賞した野依良治氏が研究していたキラル触媒についての2つができている。物理学賞については、半導体やトランジスター、エネルギー保存の法則についてなど6つがすでにできている。もちろん自然科学ばかりでなく、文学賞や平和賞、経済学賞についても、解説ばかりでなく、ロール・プレイング・ゲームのようなゲームやクイズの「Educational」ページができていて、楽しみながら理解を深める工夫がなされている。コンテンツは今後まだまだ増えていくのだろう。 ノーベル賞サイトは、こういった「お勉強」ばかりでなく、新しいインターネット技術のエキシビジョンとして見てもおもしろい。「Educational」ページではインタラクティヴなページを作れるプラグイン・ソフトShockwaveが使われていたが、受賞者が彫り込まれている記念メダルの紹介コーナーではCult3Dというソフトが使われ、メダルが回転して三次元立体として見ることができる。また、晩餐会会場やスウェーデン科学アカデミーは、IPIXというソフトによって、360度回転してパノラマ的に概観できるといった具合だ。このほかQuickTime VRやVRMLを使ったページもある。どういったソフトがどのページで使われているかを解説するページもできているので、ソフトの「使い心地」を試してみるにはおあつらえ向きである。 田中耕一さんは、「授賞式のあとダンスを踊らなければならない」と言われて怖じ気づいていたが、いかにも由緒正しいヨーロッパの晩餐会がどんなものか、現地に行くことができないわれわれも、こうしたソフトによってまのあたりにすることができる。華やかで厳かな会場をこうやって見てみると、「普通のサラリーマン」である田中さんがびびるのはなるほど無理はないと同情する気持ちも湧いてくる。 [うただ あきひろ] |
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