1983年、批評家H・フォスターが提示し、また自ら編纂したアンソロジーの表題へと採用した概念。J・ハーバーマス、F・ジェイムソン、E・W・サイードらの論考を含むこの書物は、ポストモダニズム擁護の立場に立つ代表的な文献として知られているが、実のところ同書の中で反美学の明確な定義が語られてはいない。ただ、従来の美学がモダニズムの「虚偽の規範性」、すなわち打倒されるべき既存の価値観に対応していることは容易に想像されるのだから、それに対置されるべき価値観を「ポストモダニズムの美学」ではなく反美学と位置付けたところに、フォスターの表象批判を窺うことができるだろう。それともう一点、フォスターが必ずしもモダニズム→ポストモダニズムという移行を強調しておらず、むしろポストモダニズムの中にも既存のモダニズムと同様の病理を指摘していることを読み落としてはなるまい。「抵抗のポストモダニズム」と「反動のポストモダニズム」との分類は、その指摘に対応するものである。すでにポストモダニズムが回顧の対象となって久しいが、近年のモダニズム回帰の動向は、かつてフォスターが痛烈に批判した「虚偽の規範性」を感じさせる面が強く、その意味で反美学の問題提起はいささかも薄れていない。
(暮沢剛巳)
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