「芸術としての芸術」、つまり字義通りには、完全に自律的で、また自己完結的な芸術のこと。ただこの「アート・アズ・アート」というフレーズは、アド・ラインハートが1958年から次々に発表した一連のエッセイ(「アート・アズ・アート」シリーズ)と関係が深く、彼の立場を考えにいれておく必要がある。19世紀以来の「芸術のための芸術
(art for art's sake / l'art pour l'art)をいう立場、そして「純粋な芸術」や「モダニズム」という思潮。ラインハートの「アート・アズ・アート」とはそのすべてを統合したものとも言えるだろう。芸術の絶対的な自律性と抽象絵画によるその実現という彼の主張は、そのほかをかえりみない徹底ぶりのために、いまではほとんど近代の芸術理論を戯画化したもののように見えることさえある。ただ、ラインハートの理論ならではの特徴として、特にその呪文めいた言い回しの多用など、テクスト全体がほとんど秘教的な雰囲気を帯びているということがある(そして彼の絵画作品がそうした印象をいっそう強める)。これにはモンドリアンやマレヴィッチに関心をよせ、やがて東洋思想に深く傾倒するようになる、彼のバックグラウンドが反映している。
(林卓行)
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