ジョン・ケージが『易の音楽(Music of Changes)』(1951)などの作品で用いた手法であり、作曲上の決定を偶然性に委ねることがその主な特徴である。この手法の主たるねらいは、作曲者による「意図的選択」を排除した作品制作、言い換えるなら作曲者自身の好みという障害物の除去にある。『易の音楽』では、音高、持続、音色などが、中国の易経で使われる六爻の表等とコイン投げによって決定される。また、一連の「ピアノのための音楽(Music
for Piano)」シリーズ(1952−56)では、紙の上の不純物が見られるところに、音符が作られる。チャンス・オペレーションは、ケージのなかでも最もよく知られた沈黙の作品『4分33秒』(1952)にも用いられ、その偶然性はやがて、作曲過程のみならず、演奏と聴取の場へと拡大される。こうした作曲態度を支えたケージの中心的課題は、構造なき作品にあって「それを知覚する人の意識の可能性」を問題とするものであった。破壊的革新者と目されたケージではあったが、彼にとっては主観主義のあらゆる痕跡を取り除くことが最も重要なテーマであり、またその手段としてのチャンス・オペレーションにおいて「選択」ではなく「偶然」が充てられた。ケージが他のヨーロッパの前衛作曲家とは一線を画すのはこの局面においてなのである。
(川那聡美)
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